◎沖田



貴女と死に別れてから、もう壱万と五千程は日が昇りそして沈んだでしょうか。

美しいまま時を止めた貴女に反して、俺は年老いました。
その間、毎日貴女の事を考えていたかと謂いますとそうでは無いのですが、時々貴女が不意に頭に過ぎり涙をこぼしていた事は知っていますか。最近はそれが頻繁にあるのです。
還暦も過ぎ時間を持て余すようになれば縁側にぼおっと腰掛け昊を見て死について考えます。
貴女はそちらで幸せですか。俺はそこに行けますか。そもそもそんな世界はあるのですか。貴女は俺を見てくれていますか──下らない消極的な妄想です。


しかし俺の人生は順風満帆だったのではないかと思います。
国の為に働き他人よりも少々多い給料を貰っていました。退職した後も俺の所にはけして小さくはない金額が定期的に送られてきます。妻も子も、孫もいます。月に一度は、二人で暮らすには広いこの屋敷に息子家族が遊びに来てくれます。俺がじいじと呼ばれているなんて、貴女には想像も出来ないのでしょうね。

俺は十代の頃も今も何ら変わってはいないのに、ただただ皺は刻まれ過去の産物となってゆくのは心苦しいものです。
年を経る事に自身が少しずつ消えている気がしてなりません。俺はもう半透明です。じわじわ色が抜けて、仕舞いにはすうっと無かった事になるのでしょう。誰の記憶にも残らず、忘れ去られたまま。

いっその事、一気に消えてしまいたかった。色濃く人々の脳内にこびり付き、生きた証を残したかった。しかし、老いぼれた俺にはもうそれは不可能です。




そう、俺は、貴女のように形のまま死にたかったのです。うつくしく死にたかったのです。


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テーマ「人外ファンタジー」
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