◎神楽



最近、貴男の様子がおかしい事には気づいていました。

頭は空の癖に、ずうっと一点を見て物思いに耽っているのです。答の無い問いかけを自分の中で繰り返しているのです。私が話しかけても上の空で、孫がじゃれてきても愛想笑いで。
一度、どうしたの、と訊きましたね。しかし貴男はうん、と相槌を打つだけで、話を聞いてもくれませんでした。うん、じゃなくて、理由が聞きたいのに。
今の貴男は私を見てもいないんだな、と思うと酷く哀しいです。何十年も貴男と共に過ごしてきて、私は幸せでした。私は、昔も今もこれからも、貴男をずっと好きでいるでしょう。愛し続けるでしょう。貴男はどうですか。


肉体を手離した今でも、私を愛してはくれますか。



馬鹿馬鹿しいと思います。意味も無い事を考え込んで、自分で狂ってしまった貴男は何よりも馬鹿だと思います。
昔も貴男は馬鹿でした。しかし貴男は強い馬鹿でした。無謀で大きくて優しい馬鹿でした。今もその馬鹿ならどれほど良かった事か。
話は変わりますが、先日、貴男の部屋で手紙を見つけました。
もしかして遺書かと思い、拝読させていただきました。
――何と恥ずかしい手紙でしょう。
貴男の愛する姉上はもう死んでいるのです。もう記憶はありません。感情はありません。貴男を見てくれてはいません。あなたはその被害妄想で、たったひとつしかない命を絶ったのですか。

貴男の望みは叶いましたよ。私の心に、否、私たちの息子の、その妻の、その子供の、土方さんの、近藤さんの、銀ちゃんの、新八の、数え切れない人々の心に貴男は焼き付きました。もうその哀しみの刻印はとれません。




貴男は、それで、幸せですか。







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