「せつない」
「へ?」
「胸が苦しい」
「えっ、な、え?」
「本を読んでたら」
「…本かよ」

さかただくんは、はああとお腹の底から息を吐きながら頭をがしがし掻いて、それからじゅるるとシェイクを飲んだ。赤と黄色と白のストライプのストローを、ピンク色が駆け上る。変な色の組み合わせ。

「それ、失恋ものなの?」
「ファンタジー冒険もの」
「でもせつない話なのか」
「全然」
「訳わかんねえ」

再び口をつけられたストローは、空気を含んでじゅここと音をたてる。あーあ、ちょっとわけてほしかったな、いちごシェイク。チョコシェイク飽きちゃったよ、甘ったるくて。


「この本、わたしが小学生のときに買ったんだけど」
「小学生のときからこんなん読んでたの」
「そのときは、この主人公はわたしより年上だったんだよ」
「うん」
「わたしも何年かしたら、この主人公みたいに、異世界で果てしない冒険をしたりするのかなあってぼんやり思ったりもしたけど、そんなこと全然なくてね。わたしはいつまで経っても、ひとりで本を読んでるわたしのまま」
「うん」
「あの頃の主人公はあんなに大人びてたのに、気がついたらそんな主人公の年齢も抜かしちゃって。なんだか、その世界は止まったままで、置いていかれてる気がするんだよ。それが、せつない」

わたしがいつも抱えてたせつなさを吐き出したのは初めてだった。なんでこんなこと言っちゃったんだろ、恥ずかしい。なんとなく沈黙を紛らわせたくて、シェイクを飲んだ。じゅるる。もう全然冷たくなくて、ただ甘ったるいだけのチョコレートシェイクは喉をどろりと通り過ぎる。


「よくわかんねえけど」


さかただくんは、ううんと呻った。言葉を詮索するように考え込む。


「置いて行かれてるのは本の方じゃねえの?だって俺らは進んでるんだし。それに、距離は感じても、そこにあるし」


さかただくんはそう言ってわたしが握りしめている本を指差した。


ここにある。この本はいつまでもここにある。わたしが手離すまで。


「フフフ」
「何で笑ってんの」
「さかただくんは面白いね」
「どこがだよ」
「さかただくん」
「はい」
「わたし気づいたよ」
「何を?」
「わたし今、ひとりで本読んでないね」
「…そうだな」


ズココ、同時に飲んだシェイクは両方とも空っぽだった。だけどわたしたちはまだまだここに居座るつもりでいる。これからも100円あったらマックに来よう。さかただくんと。










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