「さかただくんはよくわからないね」
「さかただくんて誰?」
「さあ」
「あんたほんと馬鹿よね」
「存じています」

さっちゃんはわたしの数少ない友人のひとりだ。とても美人なのに、変わった性癖のせいでわたしのように友達は少ない。もったいない。そして好きな人に猛アタック中らしいが空回りしているであろうことは鮮明に想像できる。その可哀想な人の名前は銀座とかそんな感じだった気がする。

「わたしもう帰るけど、一緒に帰る?」
「んー、これ読み終わったら」
「半分以上あるじゃないの。気をつけて帰んなさいよ」

別れのあいさつもそこそこに、わたしはまた恋人とともに溶け合う。今日の恋人は宮部みゆきだ。





「またお前か」
「あ、さかただくん」
「もうなんでもいいわ」

物語がもうそろそろ締めくくられる頃、再びさかただくんと遭遇した。夕陽にきらきらひかる髪の毛のせいか、彼は学ランが似合わない。

「今日は何読んでんの?」
「今日の恋人は宮部みゆき」
「楽しいの、そんなに本読んで」
「楽しい」
「ふぅん」

さかただくんはわたしの前の席(記憶によると確かペドロかトトロかそんな感じの名前の人の席だった気がする)にわたしに向かいあうように座った。あの、なんですかちょっと。読みづらい。

「俺馬鹿だから本読んでも訳わかんねーんだよ」
「315位」
「何が?」
「わたしの期末テストの順位」
「…この学校320人だよな」
「わたしも馬鹿です」
「ごめん、俺のがちょっと賢いわ」
「じゃあ大丈夫だから本は読むべきだよ」

さかただくんは盛大に噴き出した。ゲラゲラ笑って、それからまた言った。

「やっぱお前怖い」

この台詞を聞くのは二回目だけど、この前の「お前怖い」はほんとうに顔の引きつった「お前怖い」で、今日の「お前怖い」はすてきな笑顔を携えた「お前怖い」だった。やっぱりさかただくんはよくわからない。

「読み終わったよ」
「お疲れさん」
「読み終わったよ」
「だから何」
「今日は電車で来たよ」
「また送れって言いたいのお前」

さかただくんの自転車の後ろは、不思議なくらい揺れなかった。さかただくんの運転が上手いのか、でこぼこの少ない道を選んでくれてるのかわからなかったけど。



「おすすめの本あったら貸してくんない?」
「原稿用紙10枚分の感想と一緒に返してくれるなら」






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