本は良い。何が良いって、ことばで表すのは難しいんだけど。強いて言うなら、文字を読み重ねていく内に、その世界がわたしのあたまの中でだんだんとできあがっていくあの感覚は何とも言えない。完成されたものだけでなく、下手くそな文章でも好きだ。ああわたしだったらこう書くのになと考えるのも中々良いものだ。
つまり、もう何度も言うけれど、わたしはとにかく本が好きなのだ。恋人は本と言っても過言ではないっていうより、恋人は本だ。わたしが本を愛している様に、本もわたしを愛しているに違いない。
と、こんなに本について語っていると知的文学少女と思われるかもしれないが、残念ながらわたしは馬鹿なので誤解しないでほしい。ただのそこら中にいる友達の少ない女子高生である。


今日の恋人はジュール・ヴェルヌ。最も好きな作家のひとりだ。彼の作品はリアルなファンタジーで、細やかな描写によりあたかも本当にあったできごとかのように錯覚する。物語というより記録に近い(勿論フィクションであるが)。かの有名なバックトゥーザフューチャーでも彼の名前は登場する。

読みこまれてよれよれになった彼の本を開く。わたしは本を何度も読み返す派だ。ああ彼の世界は素晴らしい、こんなすてきな世界を彼はあたまの中で育てていたのだろうか。非常にうらやましい。わたしにそんな能力はまるでないので、本を通して偉大な作家たちの世界の一部を覗き見るしかないのが悲しいところだ。

「おい」

何か間違いがこの中にあるのかね、それならば説明しなさい。そのような堂々とした問いかけが彼から伝わってくるかのようだ。完全なる空想をどんと突きつけられる。それにわたしたちは舌を巻く。間違いはあるに違いない。しかしそれを圧倒する表現力でわたしたちを黙らせる。すてきだとしか言いようがない。

「おいっつってんだろ」
「うぎゃ、」


わたしの恋人がばさりと床に落ちた。呆然とぐしゃぐしゃに墜落したそれを見つめる。そして正面を見る。

「どいてくんない? じゃま」
「えーと、えーとえーと、見たことはあるんだけどね、誰だっけ。名前が出てこない」
「は?坂田だけど」
「さかただ・けどくんかーごめんね。はいところでさかただくんは?今?何をしたの?」
「お前大丈夫?俺心配なんだけど」
「なにを、したの?」
「いや、ドアの前で突っ立ってたから肩押しただけ」
「その結果、どうなったの?」
「お前が本落とした」
「正解です。これをあげよう」
「いらねーよなんだよこれ」
「ブルーベリーは目にいいよ。そのおかげでわたしの視力は3.0あります」
「お前怖い」

わたしは恋人を大事に拾い上げ、さかただくんに見せた。

「謝ってよ」
「朝からずっとここで佇んでるお前が悪いだろ」
「え、今何時」
「12時」

わたしは朝、家でこの本を開けた。そしてここは学校。チャリ通の筈なんだけど。それに今日は午前授業だけとはいえ、授業を受けた記憶がない。並以下とはいえ友達はいるのに。放置かよ。

「わたし怖い」
「俺も怖い」

そして、気づいたらさかただくんとわたしの家の前にいた。なぜか聞くと怖いからチャリの後ろに乗せて送ってくれたらしい。わたしは本を読んでいたのでチャリに乗ったこともわからなかった。とりあえずさかただくんにお礼を言うと、さかただくんは怯えに近い苦笑いをして帰った。さかただくんは失礼なのか親切なのかよくわからない人だなあと思った。




「へんなやつ」






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