「ア、金魚死んでる」


丸い金魚鉢の底に敷きつめられた、青い玉がきらきら朝のひかりに反射。中の水が淡く揺れる。同時に金魚もプカリ。歪に湾曲したそいつは口をぽかんと開けなんとも馬鹿馬鹿しい顔で死んでいる。しかしその球体の世界にはその金魚一匹だけ、孤独の中で逝った、悲しい金魚。プカプカ、青を漂う。なんだか奇妙に美しい。


「おはよう、総悟、早いな」


「おはようございやす」


襖を開けて透かした球体越しに見えた彼。それを見て目を細めた。


「死んでるじゃねーか」


「そうですね」


この世界に入って三日、こいつは何を思ったのか。縁日の水槽の中で、ひらひら、網との鬼ごっこから、丸く歪む孤独の世界、こいつは幸せだったのか。


「酸素が足りなかったんだな」


「そうなんですかい」


「水草かぶくぶくするやつ入れなきゃ、窒息死しちまうんだ」


「へえ、知りやせんでした」


酸素のない苦しい水中、巡れど周りは不透明な、青。苦しみながら、体は浮かび、死んでった。俺が殺したようなもの。ごめんな金魚。


「埋めてやりな」


「うーん、暫くこのままで」


また元の窓際に置いた。振動で水と金魚が揺れた。口も目も見開いたまま。それをなんとなしに見つめる。土方さんは溜め息混じりに去ってった。



それから一週間もすると金魚の鱗と肉片はポロポロはがれはじめ、なかなかグロテスク。鉢を掴み庭の池の中に水ごと捨てた。青い玉も共にポチャポチャン。金魚、今度は呼吸出来るかい。


 
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