「総悟、最近変だぞ」


「はい?」


夏のかぶき町を隊服で巡回するのは酷なもの。汗を垂らせながらふらふら歩いているときに、土方さんがいきなり言ったのが、それだ。


「ずっと、ぼんやりしてる」


「そうですかねぇ」


我慢できずに分厚い上着を脱いだ。漆黒のそれは、よく熱を吸収し、火傷するかと思ったほど。


「どうかしたのか」


土方さんの顎も汗が伝う。紫煙が余計に暑苦しい。しかし、頭に浮かぶのは淡い青と、それから赤。


「金魚、」


「うん」


「が、ずっと俺の頭ン中で、揺れてるんでさ」


「そうか」


池に捨てても、丸い鉢の中でそいつは揺れる、染まる。青のゆらゆらと赤のひらひらが、俺の中では一体化している。どうしようもなく、俺を揺さぶる。


「金魚、また飼うか?」


「いや、いりやせん」


「いつもは平然としてるのに、何だか可笑しいな。
ちょっと、煙草買ってくるから、ひとりでふらふらどっか行くんじゃねえぞ」


「わかってまさァ土方死ね」


このもやもやを、知りたい。何故あの球体が俺の心に残るのか。あんぐり口を開けた、馬鹿らしい死体を、何故美しいと思ったのか。考えど答えは出ない。暑さとそのくすぶりに頭がやられて、くらくらした。アア、入道雲が綺麗、青い空が深い。周りは青だ。


「おばちゃん、酢昆布くださいアル」


ア、金魚。




ひらひら、髪と服を揺らせながら、青の中に神楽が、いた。


途端に、頭が一回転したかのように、視界が回った。力の抜けた体は重力に引きつけられ、ばたん、地面に一直線。真っ青の中に、飛びこんだ。

 
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