夏バテ状態が、しつこく続く。しんどい。やる気が起きない。のに、いつものように仕事は毎日やってくる。
「沖田隊長、巡回です」
「めんどくせえ、ひとりで行ってこいや」
「怒られるの俺なんですよ」
仕方なくアイマスクを外せば、山崎のほっとした顔が視界に入る。何だか、いらりと腹の底が揺れた。何でもないことに、苛々している、俺がいる。感情が、上手くコントロール出来ない。抑え込むのは上手いはず、なのに。
「さっさと行くぜィ」
「は、はい」
パトカーに乗りこんだ。山崎は運転席、俺は助手席。キーを回すとかかる、エンジンの振動に、何故か落ち着いた。
「何にもないですねえ」
ゆっくりと、かぶき町でパトカーを走らせる。道行く人々、そして天人、いつも通り。つまらない、日常だ。
「じゃあもう帰ろうぜィ」
「一周してからです」
怠い、無性に。何にもしたくない、見たくない。席を倒し、アイマスクを取り出した。
「沖田隊長」
じろりと睨まれ、手を止める。後で茶店かどっか、寄りますか、山崎が運転しつつ、尋ねた。それには、今はさぼるな、という意味が含まれているのを感じた。俺はわざとらしいため息をついて、それをしまった。山崎が可笑しさを孕み、微笑んだ。所詮、俺が上司だろうと年上なのは山崎で、大人ぶっても幼さは拭いきれないのだ。
「あれ、旦那じゃないですか」
ぼんやり、目をやった。そこには銀髪が揺れていた。その背中には、金魚、否、神楽。
旦那は神楽をおぶって歩いていた。嫌そうな面もちを提げつつ、どこか優しい雰囲気を持つ旦那。そして嬉しそうな笑顔でもたれる神楽。それは、到底俺が入れるような、絆ではなかった。俺は、一体何なんだろう。ぶっ倒れたとき、救ってもらった俺は、神楽から見て、何なんだろう。
目を覆った。俺の盾。見たくないものを隠す、鎧。
いつからから大人になれない/110831
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