「トシ」
「何だ、近藤さん」
庭で素振りをしていたら、近藤さんが縁側に立っていた。汗を拭き、ふたりそこに腰かけた。アア日差しが、あつい。池の湖面も、白く輝く。近藤さんが持っていた西瓜を食べて、種を飛ばした。
「思わないか」
「何を」
「総悟だよ、おかしいだろう」
やはり近藤さんも、感じてた。四六時中、ぼうっと感慨にふけり、部屋にいるときは空になった金魚鉢を見つめてるのだ。
「何かあったのかな」
「チャイナ娘だよ、万事屋の」
「チャイナさんがどうかしたのか」
「恋してる。総悟はチャイナ娘が好きなんだよ」
気づいてないようだが、そう言うと、近藤さんは感心したようにほお、と言った。
「初恋だな」
「そうなのか」
「総悟は小さい頃からあんなだから、友達がいなくてな。ずっと道場で過ごしてた」
「だから気づけないんだ」
シャクリ、西瓜の果汁がぼとぼと垂れる。俺も近藤さんも、顔が赤く染まっている。なんだか可笑しくて、夢中で食べた。シャクシャク、夏の縁側にはじける。蝉のうるささと共和して、それさえも可笑しくて。飛ばした種は池に沈んだ。
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