お仕舞いだ。永遠に続くんじゃあ或るまいかと思っていた戦争は、驚く程呆気なく終りを迎えた。身体には未だ誰のかも判らぬ体液が染みこんでいると云うのに。ハイ、戦争は終わりました。貴方達、もう闘わなくても良いのですよ。そう俄然と言われてたとて、両手を揚げて喜ぶ輩等居るまい。誰が闘いたくて此処に居た? 誰の為に闘ってきた? 護る為の剣を、誰か好んで殺す為に構えたかった? 御上が負けを認めた瞬間、何にも無くなったくすんだ平野で、俺達は途方に暮れて居た。闘いが終っても、俺達に未来が在るとは、到底思えぬ。

嗚呼親愛なる先生よ、貴方が憎んだ戦争は終ったのです。貴方が命を失って迄、批判した戦争は、終末を迎えました。惨敗です。只、悪戯に、民が死んでいっただけ。これから、この国はどうなるのでありましょう。別に、俺達自身は天人などに恨みは無いのに。俺を撃とうと銃口を向けた幾人もの天人も、俺自身など、全く知らない筈なのに。何故殺さなくては、殺されなければ成らないのでしょうか。そんな疑問が在ろうと、相手は殺そうとして来るのですから、俺もまた刀を構えるのです。あれ、それだと俺も相手と何ら変わらないんじゃ無いかなア、なんて。可笑しくて、笑ってしまいそう。

貴方に教わった様に、手際良く太刀筋を避け、隙を見て刺し。数えちゃいませんでしたが、俺ははるかに周りの者よりも、それに長けていたのだどうなるので云うことは判りました。とろい奴から順番に死んでゆきました。小さい頃から貴方に教わった剣道が、役に立った処で、嬉しく或りません。こころを守れと、教わった剣道が、人殺しに役立つなんて。貴方に対する侮辱なのに、俺達は抗え無かったのです。抗えば死が在ると恐れ、貴方の様には立ち向かえませんでした。死にたく無いから殺してゆく、この矛盾。虚無感だけが、残りました。哀しいくらいの冒涜を、どうか許していただきたい。







「ばかばかしい」


桂は呟いた。桂もボロボロに、傷付き、疲れ果てて居た。皆そうだった。出来ることもなく。只、終ったのだと。それだけ。


「先生は何時だって、正しかったのだ」



先生が居ない今、その存在は最早、神のような物だった。俺達にとって、先生だけが正義だった。



「もう、どうだって良い、こんな世界、壊れてしまえば良い」


高杉は泣いて居た。只、失った左目からは、血が滲んで居た。昔から皆より、先生に依存して居た高杉は、もう何もかも失ってしまった様に見えた。今、彼に、何を言っても無駄だと、判った。


「わしゃあ、おんしらの先生は知らんが、その先生の話には賛成じゃ。天人を拒絶すること何ぞ、元から不可能だったきに。もっと良い方法が在った筈じゃろうが。わしは宇宙に出るぜよ。天人に利用されるんじゃあ無く、利用仕返してやる」


「御前らしいな。だけど俺は、やはり、この幕府は許せん。正しい道理に合ったやり方で、国は護られるべきだろう。しかし、武力のみで訴えるのは可笑しいと思う。これ以上、悪戯に命が失われるのは、もう嫌なんだ」


思考もバラバラで、皆これから異なった道を歩むのは明確だった。望む、平和は同じなのに、何故これ程に、歩調が合わないのか。団結し、共に進むことは出来ない。


「銀時、手前はどうするつもりだよ」


高杉が訊いた。眼を押さえていた左手は、血みどろだった。


「ヅラは幕府を倒すんだろう。俺もそれには賛成だ。だけど、幕府の人間がのうのうと生きていて良い筈がない。罪も無い先生を殺したんだ。間違いは、死をもって判らせるべきだ。なア、そう思わねエか? 銀時、一緒に来いよ」



高杉には、もう憎しみしか残っていなかった。無論、その気持ちが判らないでも無い。先生を殺した奴など、死ぬべきだとは思う。幕府も信用出来ない。だけど、今の高杉は、もう止まれないに違いない。俺は、そっと眼を閉じた。先生、俺達は、もう一緒には居られない。



「俺ア、皆と一緒に居てエ。だけど、それは無理な様だ。辰馬みたいに、天人と仲良くも出来ねエし、ヅラや晋助みたいに、幕府を倒そうとも思わない。只、先生の望む様に、緩く優しく生きて行きたいのよ。俺は自分の生き方が正しくて手前らが間違えてるとも、俺が間違えて手前らが正しいとも思っては無い、俺は逃げたって思ってくれても構わない。ヅラも晋助も犯罪者の道だけど、止めない。応援もしない。まア、寂しくなったら会いに来てくれよ。俺アのんびりやるからよ」


「アア、御前にはそれが良い」


桂は微笑んだ。坂本はいつもの様にばかみたいに笑った。高杉は舌を打った。



「またいつか、皆で、酒でも交わそうじゃねエか」




いつか、ね。



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