「久しいな」

最近会って無いなと思っていたら、桂は突然やって来た。何時もそうだったから、驚いたりし無かったけれど。只、平然に。いきなり来て悪いだとか、そう云う雰囲気なんて一切無くて、最早自分の家に帰るかの様な、自然さだった。深夜だろうが、俺が寝ていようが、お構い無しに。

「近頃は物騒だからな、忙しかったんだ」
「物騒にしてんのは誰だよテロリストが」

特に変わりの無い、下らない会話。世間話や冗談を交え、ちびちび、酒を呑む。桂は何時だって、酒を一本持ってきた。此処に酒はないと熟知しているからか、訪問の礼儀か。否、後者は無いなと思う。そんな間柄では無い。礼儀など無用。何と云ったって、ずっと幼い頃からの馴染みなのだ。嗚呼、この歳になって、旧友と時たま会えるのは、こそばゆい様な、嬉しい様な。

「過去に戻りたいとは、思わないか」
「こどもの頃に?」
「勿論」

脈絡も無しに問われた、その言葉では、桂の真意は判らなかった。意味深で不可解だ。戻れるのなら、俺たちには何が出来るのだ。桂や高杉が、命を捨てるに等しいテロリストになるのを防げた?俺たちはバラバラに成らずに、ずっと共に笑って居られた?先生を、救えた?振り返ってみると、案外、人生って後悔でできているのかもしれない、なんて。判りきったことだけれど。

「戻りたい、と思うときもあるけどさ」


例えば、今幸せかい、と問われれば、何と答える。


「今が壊れんのが怖いから」
「同感だな」

桂には桂の今があり、俺には俺の今がある。今は過去が違えば成り立たないのだ。先生を救えていたのなら、ひょっとしたら俺はこんな仕事はしていなかったかも知れない。その何かの拍子で、俺は戦争で死んでいたかも知れない。きっと、過去の数え切れない程幾つもの選択肢の中で、俺は数え切れない程の間違った選択をしたと同時に、数え切れない程、今の幸せに繋がる選択をしてきた。それまでもが、全て無くなるのは、何と恐ろしいことか。だから、俺たちは先生がいない今を生きてる。辛い過去は捨てられない、だけど、仕方なくだったとしても、生きてる。その中で、ほんの少しでも過去を共有できる人がいるのは、素晴らしいじゃあないか。


「まあ、過去に戻りたくても俺たちはタイムマシンなど持っとらんからな」
「手前が言い出したんだろうが」


フフ、と、可笑しそうに微笑んだ。部屋を見渡す。何時もの、只の、万事屋だ。ここに居ない今を、想像しようとして、止めた。どれ程考えたとて、変わるわけでも在るまい。変わる必要も無い。ほんの少しの後悔は在るけれども、それはまた、希望にも成るのだ。そうだろう? 高杉もいつか帰ってくる。坂本とも、距離は離れていようと繋がってる。神楽も新八だって、傍にいる。先生は居ないけれど、俺はもうひとりじゃない。ひとりになれない。それで良い。人生は永い、いつかきっと全てが良くなる。自然の摂理なのだ。


「乾杯だ」
「俺たちの未来に」


陶器同士がぶつかる、清々しい音は、一体何の合図だろうか。

俺たちの世界は俺たち思い通りになるなぜなら世界はまわっているんじゃなくて俺たちが自力で汗水垂らしてまわしているからだ世界は俺たちを幸せにするためにある
( 今迄の、俺の選択の中で、いちばん正しかったのは、きっと、あのとき先生についていったことだよ、人生は永い、だけど永遠じゃない、その終わりに先生とまた会えるのも、俺の希望だ )



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