茹だるような暑さ、こんなに汗だくなのによく身体が干からびないなと思う。風通しも悪くまたクーラーどころか扇風機さえもないこの空間にずっと居続けるには、かなりの忍耐力が要った。しかし外に出ようと、そこには風と同時に焼け付くような太陽の放射もあるのだ。もう金はない。パチンコに逃げることもできない。ただ、もらった団扇でぱたぱた扇ぎながら(それは無に等しい)ソファに寝転ぶだけしか俺に道はない。その間、聞こえるのは時たま発する「あちい」という声とギシギシ軋む音、それから外のざわめきだけ。なんだかひとりここにいると、隔離されてるように感じるなあ、なんて考えてたら汗が目に入って滲みた。身体がベトベトして気持ち悪かった。風呂に入ろうかと思い、ソファから立ちあがった。その後が記憶にない。



パチャン、激しい水音と冷たさで気がついた。俺は床に這いつくばっていた。俺もビチョビチョ、床もビチョビチョ。
「ア、起きたアル」
「大丈夫ですか銀さん」
「何何、俺何してた」
「帰ってきたら死んでたヨ」
「熱中症ですかね」
起き上がると二日酔いみたいに頭がくらくらした。それと喉がカラカラだった。やっぱり、汗をかきすぎると身体は干からびるようだ。
「水くれ」
「はいはい」
水が暑さですぐに熱と共に気化する。涼しい。はじめから水に濡れておけばよかった。寝転ぶと、床はひんやり冷たかった。
「神楽、今日どこ行ってたんだ」
「新八の家で探し物」
「探し物?クーラーでも発掘できたか」
「銀さん、水ですよ」
透明な水に浮かぶ四角い氷が、水中を転がり軽快な音をたてた。寝ながら飲むと横からこぼれたが、どうせ濡れてるのだから気にしなかった。残った氷を噛み砕く。
「下駄アル」
「下駄ァ?」
「神楽ちゃんも銀さんも、暑そうなブーツしか持ってないでしょう。姉上の古いのと、父上が使ってたものがあったんですよ」
「わたしが赤で、新八は水色で、銀ちゃんが青アル」
神楽は嬉しそうにはにかんだ。
「今日の祭に履いて行きましょう。ね!」
パンと手を打って新八は強引に予定を決めた。ため息と笑みがこぼれる。起き上がり言う。「さっさと用意しろ」


もうじき日暮れだ。夏の暑さも逃げてゆく。遠くから祭の太鼓ばやしの音が聞こえる。神楽の傘も必要ない。夕焼けに染まった道に響く、下駄の心地よいこと。



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