「夜兎になんか、生まれたくなかったアル」
彼女は遠い目をして言った。
「化け物なんかにネ」
「そりゃおめえさん、無理な願望っつうもんだ」
からから笑う。彼女はそれを睨む。
「手前のかあちゃんの何百もある卵子のうちのひとつと、手前のとうちゃんの何億もある精子のひとつが組み合わさってできたのが手前だ」
「そんなの知ってるアル」
「手前のかあちゃんがそのとき具合が悪けりゃ受精卵が着床しなかっただろうし、手前のとうちゃんがそのときとき避妊具つけてたら受精卵が生まれることはなかった」
「……」
「そもそもそのセックスをしなけりゃすべてがパーだし、手前の親が片方でも生まれてこなけりゃお前の姿形は永遠にない」
「沖田、わかってる、そんなこと」
わかってるヨ、と彼女はもう一度言って膝に顔を埋めた。

「俺の言いたいことも?」
「なんか、感謝しろ、とかでしょ」
「ちげえよ馬鹿。だから手前は神楽なんでィ」
「何だヨ」
「その素晴らしい確率のなか生まれた俺たちが、広い宇宙のなかで出会えたことがうれしい、ってこと」

彼女はくすりと笑ってありがとうと言った。



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