こわいと思った。ぽたぽたとわたしの意に反し流れ続けるソレに、確実に恐怖を感じた。ズキズキした痛みが、酷く鈍った。



「銀ちゃん」
「おーどーした」
「血が」
「血ィ?怪我でもしたのか」
「血があ」
 神楽はぽろぽろ泣き出した。何かと訊いても「血が」としか言わない。抱きつき泣き続ける神楽の頭を撫でながら、困惑した。



 じわりと染み出すソレは女の象徴であると知っていた。だけどわたしはもう十四なのにソレは来なかったから、もしかしたらわたしは女じゃ無いんじゃないかとか、夜兎にはソレは無いんじゃないかと、ぼんやり思っていた。だからいきなり訪れたソレに、慌てふためいた。



「ああ、生理来たの」
 そんな理由かとほっとした。そして、やっぱりまだ神楽はまだ初潮を迎えていなかったのだと思った。俺も神楽の月経について考えたこともあったけれど、そんな様子も無いし、第一我が家の厠には生理用品が常備されていない。
「びっくりしたのか」
「ウン」
「とりあえず、俺がナプキン買ってくるわ。それまでお前トイレで待ってろ。その下着は洗ってまた穿けよ。あーサニタリーパンツとかも買わなきゃいけねーのか。金かかるなクソ」
 神楽は、恥ずかしそうに俯いた。そりゃそうだ。本来、これは母親から教えられるものなのだ。女の事情なのだ。なんだか申し訳ないような気持ちになる。俺だって神楽に男の事情を知られたら死にたくなる。
 だから、優しく微笑んで言った。
「神楽ももう女だな。おめでとさん」



 そう言われて、わたしは変な気持ちになった。じゃあ、昨日までのわたしは女の子じゃ無かったのか。でも、あながち間違ってはいないのかもしれない。昨日までのわたしと、今日からのわたしは、明らかに異なっているのだ。わたしは何も変わっていないのに、わたしのからだは何かが大きく変化した。わたしのからだでは、何かを失って、何かが生まれた。そんなことを考えると、なんだか悲しい気持ちになった。

 グッバイ、リトル・マイセルフ。



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