互いに寄り添って、もう何年。しわくちゃになった手もいとおしさというより必要性を感じる。大好きだとか愛してるという言葉をささやくことはもう無いけれど、今となってはそんなものは必要無い。ただ手を握るだけでわかるのだ。しわしわの手と手が繋がったところでそれは決して綺麗な場景では無いけれど、それは何よりも優しい愛に溢れている。

 穏やかな老後。俺はとうに真選組を引退したし、神楽が勤めていた万事屋も既に無くなっている。ただふたりでのんびりと縁側に座りぽかぽか日向ぼっこをしたり、近所を散歩するだけの生活である。特別変化は無いこの単調な生活は、若い頃ならば「つまんねぇ」と言ったのだろう。しかし脳のはたらきも身体の機能もおとろえた今では丁度良いのだ。

 しかし、俺の妻は俺とは違う、夜兎である。勿論俺よりも何倍も体力もあるだろうし、活発な筈だ。老いていないとは思わないけれど、きっとまだ気持ちは若いだろう、俺よりは。実際俺よりは四つほど若い。

 では彼女は、「つまんねぇ」と思ってるのかもしれない。こんな老後生活に飽き飽きしてるのかもしれない。なんて、劣化の一途を辿る脳で考えた。だから訊いたのだ。


「なあ、幸せかい」

 彼女はしばらくぽかんとして、くすりと笑った。

「幸せデスヨ」

 勿論、とつけ加えた。

「どうして?」

「お前さんと一緒なら、何処にいようが何をしようが幸せアル」

 それがひどく嬉しかったので彼女にキスをしたくなったが、流石にこの歳でそういうのは恥ずかしいため手をぎゅっと握るのに留めておいた。



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