地球温暖化の今日この頃、異常気象続きで寒くなったり暑くなったりを繰り返す気候に散々振り回されてきた。二月に夏服で過ごせば三月に雪が積もるのだ。人間もそれに戸惑ったのだから、桜も戸惑って当然だろう。

 そう、桜はまだ開花しない。頑なに蕾を閉ざしていた。残念だ、本当に。いつも散る姿を見て、姉と重ね合わせていたのに。かなしく、はかない姿。何よりもうつくしい。

 みたいのだ。うつくしい彼女を。うつくしい女性を。だから咲いてもいないのをしっているのに、つい桜木の元へ足を運んでしまったのだ。


「…咲いて無いねィ」


 桃色どころか緑色さえも無い丸裸の木は寒そうだ。殺風景な春が来たなあ。



「うげ、お前何してるアルか」


 後方からの嫌そうな声とくちゃくちゃという音。はあと溜め息をついた。


「てめえには関係ねえな」
「別に知りたくも無いアル」


 俺はこの女が嫌いだ。おしとやかさの欠片もない、体力と食欲だけが取り柄の毒舌女。姉と正反対だ。


「咲かないアル、桜」
「へえ、メスゴリラでも花を木にするんだねィ」
「てめえいっぺん死に晒すヨロシ」

 彼女はぎろりと俺を睨むとぺたりと木に触れ枝を見つめた。咲かない蕾を唖然と見る彼女は俺と同じ瞳で、嗚呼、こいつも今は亡き人と重ね合わせているのか。こんなろくでもねえ女であるが、宇宙から命からがら逃げてきた天人だ。背負うものも大きいのかもしれない。

「花はすぐ散るな」
「そうアルな」
「命とおなじ、はかない」

 彼女はしばらく黙った。それからうなり声を微かにあげた。

「でも、花は散っても木は生きてる、ずっと」

 その通りだ。だけど、うつくしかった姿から、利得もない姿へ変わってしまうのはかなしくはないか。あれほどかがやいていた花弁が自らの元を去り、変わりに無価値な葉が生えてくるのは嫌な気持ちでないのか。俺は彼女にそう問うた。彼女はきっぱりと否定した。

「かなしくなんかないヨ。その間、次の自分のかがやきの期待に胸躍らすだけアル」

 では、それならば、姉上は。

 病の床にいながらも、自分が太陽の下かがやきつづけるのを期待していただろうか。そんなの、なんて素敵。


 葉も花もないさみしい木に桜が咲き誇った気がした。気がしただけ。














意味わかんねーこの駄作を「沖神春祭り」さまに投下。ちゅどーん。ありがとうございました。



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