僕には目標があるのです。頼りになり、皆を思いやり護れるほど強くなること――言うなれば、銀さんのもっとしっかりしたバージョンで御座います。いえいえ、決して銀さんの悪口を言っている訳ではありませんよ。
弱い弱い僕は皆を護るどころか自分自身を護ることさえ困難で、ただ荷物になっているだけなのです。これほど苦しく辛いことがあるのでしょうか。
僕の躰は人間で銀さんの躰も人間で神楽ちゃんの躰も人種は違えど人間なのに、僕ひとりだけ置いて行かれている哀しみを果たして彼らは知っているのかしらん、なんて意地の悪いことばかり考える僕は本当に弱く意気地無しで御座いましょう。だけれど僕はやはり強くなりたいのです。これはおそらく僕の意地で御座います。
だから、訊いてみたのです。昼下がり、銀さんはソファに寝転び神楽ちゃんは酢昆布をむさぼり僕は緑茶を啜っていたとき、突然に。
「ねぇ、銀さん」
「おー」
「銀さんは強いです」
それは一体、
「何故でしょう」
彼はちらりと顔を覆っていたジャンプをずらし片目の視界に僕を入れて、ほんの少し見つめました。
「どうした、お前」
「僕は弱いですね」
ふうと溜め息を吐きました。
「ちいさい頃からずっと刀を握っているのに、どれほど頑張っても中の上にしかなれないのですよ」
ばさり、ジャンプが床に落ちました。しかし彼はそれを拾おうとはせず、ただ僕の眼を見ながらむくりと起きあがりました。
「新八ィ」
いいか、よォく覚えておけよ、彼はびしりと指を差してそう言いました。
「人はな、協力だ。
神楽は大きな戦闘力だ。敵を追い詰める。俺はとどめだ。酷な仕事だよ。
じゃあ、てめーの役割は何だと思う?」
僕はううんと首を傾げました。何だろう、もう全て埋まってしまっているじゃあありませんか。
「解らないですねえ」
「あらら、そりゃあ強くなるめぇよ」
「そんなのが解らないなんて、新八も阿呆アルな」
「一体何なんですか、教えてくださいよ」
銀さんと神楽ちゃんは顔を見合わせにやりと嫌な笑みを浮かべました。
「お前の役割は、俺らが映えるように周りの雑魚を大人しくさせ尚かつ画面の邪魔をしないように計算しながら走り回りそして」
「要約すりゃ地味は画面に入るなってことかァァァァ!!」
ほんと最低ですこいつら。助け合いという美しい単語を彼らは知らないのです。
「いやいや、重要な役割だよ新八君?」
「そうアル、踏み台ネ」
「それが嫌だって言ってんだよ!」
「でもよ、」
銀さんはポリポリと頭を掻きながらぼそりと呟くように言いました。
「お前には感謝してる部分もあるんだ」
そうです、彼がこんな人だから自分の扱いが酷くてもついていこうと思えるのです。滅茶苦茶な人でありますが、己のルールをしっかりと持っているのです。
置いていかれてる僕は、きっとこれからも追いつくことはありません。しかし、この距離間が僕にいちばん合っているのですから、このまま保ちながら彼の後ろ姿を必死で追いかければ良いのです。
掌 様に提出。
ありがとうございました。