馬鹿だなあ、今頃気づくなんて。

 友達以下、良く言っても悪友な奴が今宵旅立とうとしているのならば、貴方はどうしますか。勝ち目の無い戦に向かうのならば、貴方は何を思いますか。私はにやりと厭な笑みを浮かべて皮肉のひとつでも言ってやろうと思っていた。わざわざ死にに行くなんて哀れな男、まあ精々頑張りなよ。そんな言葉でも投げつけてやるつもりだった、のに。一言も発しようとせずにただ星空を見つめる哀しそうな瞳が目に入って、私も口を噤んだ。星よりも何よりも儚げで彼奴らしく無い。こんなだと戦場に行っても直ぐにやられてしまうんじゃあないかと思ってしまった。声をかける術も傍に寄り添う術もましてや嫌味を言う術も瞬時に消え失せ、私の口からは声に成れなかった呼気が出て行く。嗚呼、喉が渇いた。だけど動く事も出来ずに夜風にさらさら揺れる彼の髪をぼうっと眺めていると、彼は口を開いた。
「俺は、今宵、死ににゆく。
それについてあんたはどう思いますか」
 なんという際疾い問いかけだ。私はほんの少し眉を寄せた。
「馬鹿だと思う」
「そりゃそうだ」彼はふんと鼻を鳴らして嘲笑した。「そうしたら、それを自ら望んで行く俺はどう思う」
 こんなに真っ直ぐな瞳でそんな事を言って良いのか。こんなに口元を歪ませて言う台詞なのか。此奴はどれほど死にたがっているのだ。
「死にたいの」
「死んでも構わない」
「どうして?」
「俺は病気だから」
 彼は渇いた笑い声を漏らした。憫笑であった。自分を可哀想に思い、笑っていた。
「結核でィ。あんたもこれ以上近づかない方が良い」
 言葉を探り出すのは不可能だった。彼の瞳を見つめるので精一杯だった。少し動揺していたのだ。心の何処かで、強い沖田は戦場で勇敢に闘い勝利し、何時もの厭な笑みを浮かべて帰還するのを想像していたのかもしれない。此奴はやっぱり死なないと、勝手に思い込んでいた。わなわなと指先が震えている。
「死なないでヨ」
「戦で?病気で?」
「両方に決まってる」
「残念ながらそれは不可能だな」
 死んで欲しくない、とはっきり思った。嫌だと思った。ここにいて欲しいと思った。しかし彼は気楽な様子でくくくと笑っていた。ある視点から見れば壊れている様にも見えた。
「じゃあ、もう行ってくらァ」
 刀を差し直し、沖田は「じゃあな」と言い歩いていった。死にゆく背中は何時もより大きく見えた。死ぬ前の見栄なのだ。
「帰ってくるの、ずっと、待ってるから」
 そう言うと沖田はやめとけ、と小さく返事した。やめないよ。ずっと待っている。彼奴が死んでも私の身が朽ちてもずっと待ち続けてやる。そう思ったところで、気がついた。私は沖田が好きなんだ。慌てて沖田の方に目線をやれば、そこはもう星空だった。



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