少女は言った。永遠が欲しい、と。永遠に時が在るならば、欲なんて無くなるでしょう、だから私が血に飢えることも飽き飽きして無くなるかも知れない。男は成程なと首を唸らせた。確かに彼女の血液と平和主義は相反し過ぎる。
「しかし」と男は言った。「永遠に終わらない苦しみと云うのは、まるで生き地獄じゃあないか」
少女は眉を下げて哀しそうに笑った。
「それでも、私は誰も傷つけたく無いアル」
もし、少女が夜兎で無ければ。血を求む事が無ければ。普通の女の子だったならば。永遠が欲しいと言っただろうか。それ以前に、彼女は本当に傷つけたく無いから永遠が欲しいのか。ただ何時かは終わってしまう命を思うとやるせなくなっただけでは無いのか。
しかし、だけどやはり、彼女が何を考えているのかなんて解る訳も無い。だけど俺ならば絶対に永遠などいらない。数え切れない程奪ってきた命をこの軟弱な身で永遠に背負っていけと?
早く、下ろしたいのに。今すぐにもこの罪を。だけど俺はこれからもそれを増やしていくしかないのだ。重い。辛い。楽になりたい。
永遠が欲しい少女と、無になりたい男。利害は一致した。
男は少女の手を自らの喉元に押さえつけた。どくんどくんと動脈の鼓動を手に感じ少女は躰の中がざわめいた。
「この忌々しい体を、砕いてくれ」
少女は指に力が入っていくのを止められなかった。
「そして誰かに喰われたいなあ」
出来たら、君に。
君に永遠をあげるから、一瞬を僕に頂戴