はあはあと云う息遣いの音と、耳を切る風の音、それから一周する度にギイギイと軋むタイヤの音だけが俺達の周りにあった。身体を横切る風は信じられない程冷たいのに俺の体温は時間が経つにつれてだんだんと上がってくる。息が切れる程自転車を漕いでいるからか。否、それだけではない。きっと神楽が背中にしがみついているからだ。

「沖田、寒くないアルか。」

腰に回された細い腕にぎゅっと力が入った。後ろにいる為見えないが、きっと神楽には大きすぎる俺のダウンを風にはためかせ鼻先を赤くしているのだろう。俺は寒くても構わないのだ。寒かろうが風邪をひこうが健康な人間にはどうということはない。

「おま、え、は?」

「わたしは暖かいヨ。」

俺が着ている薄いトレーナーに神楽がぽてんと頬をつけた。それ越しに神楽の体温が伝わる。

彼女はあまり外に出たことがないと言っていた。幼い頃からずっと入院していたのだ。俺が他校の奴と喧嘩して入院するまで、同年代の人と話したことすらなかったらしい。俺と話しているだけでずっと嬉しそうに微笑んでいた。俺の学校の話や友達の話を飽きることなく聞きたがった。俺は素直で純粋な彼女の唯一の友達だったのだ。

彼女は星が好きだった。病室の壁には沢山の星空の写真が飾られていた。しかし彼女の病院からは星がちらほらとしか見えない。儚い星も好きだけれど、と彼女は言った。何時か満天の星空をこの目で見てみたい。その哀しげな青に染まる瞳を見て、俺はつい言ってしまった。

「見に行くか?」

夕焼けのような髪を揺らせてそれは嬉しそうに頷いた。慌てて暖かくなったらな、と言っても強情な彼女の耳には入るわけもなかった。

「まだアルか。」

「もう、ちょっと。」

どこが悪いかなど知らない。だけど彼女の願いを叶えてやりたいと思う。喜ぶ顔が見たい、あの青い無垢な瞳に星が映り煌めくのを見たい。

まあそれまでもう暫くこの背中に感じる彼女の温もりを感じているのも良いかもしれない。まだ着くまでに時間はたっぷりある。それまで彼女とこの耳障りな音を堪能しようじゃないか。


はあはあと云う息遣いの音と、耳を切る風の音、それから一周する度にギイギイと軋むタイヤの音だけが俺達の周りにある。






さよなら地球さまに提出。
ありがとうございました。



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