はあ、と息を吐くと白い煙になり、すぅっと渦を巻いて消えた。それを見て、ああもう冬だな、なんて思う。爺か俺は。だけど、もうすぐ消える命だ。少しくらい感傷に浸ってもいいだろう。この儚い白を見ていたかった。俺がまだ命在ることを示しているから。
ズキンズキンとした痛みはとうに引いた。流れ出る血のぬくもりしか感じられない。はあ。また大きく息をついた。さっきより大きめの白が表れて、消えた。これで、雪でも降っていたらいいのに。白に溶け込んでしまえたなら。
「お前、何やってるアルか。」
聞き慣れた声。それは怯えてる声でも、驚いてる声でもなかった。淡々と、疑問を投げかけられた。
「死に、そうに、なってんでィ。」
少し声が出づらかったが、俺も普通に答えた。今何してる?テレビ見てる、くらいの単調な会話は、この状況ではあまりに似つかわしくなかった。
「ふぅん、そっか。」
声は近づいてきて、俺の横に腰を下ろした。触れてもいないのに伝わってきた人肌のぬくもりが熱くて驚いた。きっと神楽が熱いのではなく、俺が冷たいのだ。
「あー、お腹減ったネ。今日の晩御飯何かな。」
あー、と同時に、神楽の口からも白が吐き出された。先ほど俺が出したものよりずっと大きくて勢いがよかったし、かなり長い時間空気中に滞在した。
「それ、痛そうアルな。」
「べつ、に。」
「そう?」
「ああ。」
「へえ。」
擦りむいた傷じゃないんだから。俺は可笑しくて可笑しくて笑みがこぼれた。
「何笑ってんだヨ。」
「人はな、死ぬときは、笑、いたいもん、なん、だよ。」
「きも。」
もう一度息を吐こうと思ったけど、あまり息が出なかった。
「な、俺が、死んだら、泣くかィ?」
「泣かないネ。」
「絶対?」
「絶対。」
「あっそ。」
視界がだんだんと白くなってきた。色褪せるように、それでいて、光に包まれるように。
「かぐら。」
せめて、死ぬ前に、俺の気持ちを唇にのせて。
神楽に倒れ込むように、かするだけのキスをした。それでも焼けるかと思うほど熱かった。
「好きだぜ。」
「ばいばい。」
返事もせずに別れだけ述べたお前は、どこまでも強情だ。だが、自分の感情を無にするなど出来るわけもない。
もしもあたしが神様だったならさまに提出。