旦那が、死んだ。その情報を耳にしたのは昨日だった。滅茶苦茶な人ながらも、その剣は不死身を思わせるほど強く、真っ直ぐだったのに。
だけど、悲しいとか、辛いといった気持ちはなかった。もうあの気怠げな声で総一郎君と呼ばれることはないのだな、と思うと少し淋しい気もするが、それは旦那に対してではなくて、二度とかえってくることのない何かを失ったことに対する淋しさなのだろう、たぶん。俺は死というものに慣れすぎている。
でも、お前はそうもいかなかったらしい。
万事屋銀ちゃんという看板はそのままだった。これはいずれ外されるのだろうか。
からりと戸を開ける。しかし誰の返事もなく、まるで人がいないかのようだった。いるはずなのに。ほら、ここに。
暗い押し入れに丸まっている、お前。
「銀ちゃん……?」
「違いまさァ。」
「…………。」
いつもの青く綺麗に輝く瞳はどこにいったのか。虚ろに宙を見るような視線。ああ、神楽は俺を全く見ていない。
「ここから出ろ。」
「…………。」
黙ったまま微かに首を振る。なぜか無性に苛々した。
「出ろ!」
「いやぁ!」
手首を掴んで引っ張れば、悲痛の声が上がった。少しびくりとしたが、構わず手を引いた。
「銀、ちゃんが、いないからッ!」
くすんだ瞳から涙がぽろぽろと零れた。俺はハッと気づき手を離した。何をやってるんだ俺は。こんなことをしても意味がないのに。
「いないアル…銀ちゃんが、いない…!」
決壊したかのように大声で泣いていた。神楽の何かが壊れた気がした。俺が壊した。
「いや…銀ちゃ…あ…!」
俺はどうする術もなく、ただ崩れゆくものを見つめていた。
これも、二度とかえってこないものだな、なんて思いながら。
「神楽。」
抱きしめても、涙に濡れるだけだった。ましてや、この背中に手を回されることなどあるはずもない。「ずっと俺が傍にいるから……だから泣き止め。」
神楽は首を振ってまた言った。
「銀ちゃん……。」
なァ旦那、俺はあんたのかわりにさえもなれないのかィ?
きっと、今俺が目の前で死んでも、神楽はあんたの名前を呼ぶのだろう。
俺はどうすればいい?
「お前は、何が望みなんだ?」
神楽は言った。なんの戸惑いもなく。
「銀ちゃんの、傍にいたい。」
「…わかった。」
それで、俺は刀に手をかけた。
――これが、神楽を殺した理由でさァ。土方さん。…狂ってる?は、どこがだィ。俺は神楽の望みを叶えただけでィ。
ほら、神楽の幸せが、俺の幸せだから、さ。
だから、俺の望みも叶えてくれやせんかね?
神楽の、傍にいたい。
蝕む、
(その壊れた愛の連鎖。)
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「幕末、切ない」でしたが、切ないかどうかが微妙。狂愛にみえなくもないですね。沖神も危ういです。銀←神←沖? いや、沖神と言い張ります。