目が覚めると何時もならば薄汚い押し入れの中で基本的に足を枕に乗せている。そこは窮屈だし不潔で良いところなどないように思えてくるが、私はその空間が少し好きだったりした。古い木の香り、襖の隙間から入ってくる仄かな光――何でもないことだけれど、私が落ち着く場所であった。母の胎内で羊水に浸かり身体を休ませているような安心感。それが好きだった。

だが本日の目覚めは酷く暗かった。瞼を持ち上げていないのかと思うくらいの純粋な暗闇であった。夢なのか。それは私にも解らなかった。頬を抓るなどはしなかった。冴えきらない私の脳はぱちぱちとまばたきをすることしか命令できなかった。それに押し入れにひいてあった布団は決して柔らかいとは言い難かったがそれすらも無く、私は金属質な床に転がされている、のだと思う(真っ暗で解らないが)。

もう一度寝てみようか。そんなことを思ったとき、光が私の目を刺した。先程とのあまりの差にぐらりと眩暈がした。

「神楽、目が覚めた?」

細めた目では視界が霞んで橙色の髪しか捉えることが出来なかった。しかし誰かを理解するにはその情報は十分すぎた。それが吉報で無いことなど火を見るより明らかだ。

「お前が考えてることが、何も解らないヨ。」

私がそう言っても神威は笑顔を崩さない。その偽善的な笑顔を見ていると反吐が出そうになる。

「うーん、何を考えてるんだろうね、自分にも解らないな。」

いらり、思わず眉を寄せたくなるような感情に苛まれる。へらへら人を殺して楽しむ奴の気持ちを理解する気にもなれない。不機嫌な表情を崩すことも無いまま立ち上がり奴を睨みつけた。

「何で私を連れてきたアルか。」

「阿伏兎から結構強いって聞いたからかな。一度神楽と闘ってみるのも悪くない。デメリットは無さそうだから。」

「デメリットも無ければメリットも無いかもしれないのに。」

「構わない。つまらなかったら殺すだけだ。」

嗚呼、この男は恐ろしい。命を知らない。仲間でさえ身内でさえ、非も情も躊躇も無く命を断てる。今私はこの男に命を握られている。きっと少し力を込められたら血飛沫を散らし宇宙の藻屑となるだろう。

「殺されないように、俺を楽しませてね。」

優しく私の頬を撫でる彼の手は冷たくも温かくもない、ただの人の手であった。

しかし彼は哀しきうさぎだ。ひとりぼっちだと死んでしまう。だが曲がった彼は伝える術を知らない。


「一緒にいて」とさえも言えない彼の笑顔が少し歪んだのは気のせいでしょうか、



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