あなたは二年前とまったくちがう瞳をして、冷たく唇を歪ませながら言うのです。
"この世界は俺のもの。"

私がいない間に何があったかなんて知る由もないですが、変わってしまったあなたを見て、少し悲しい気持ちになりました。馬鹿でドS、それでいて優しさも混じるあなたの魂に好感を持っていたのに。

今思えば、そのときに伝えていれば良かったんだと思います。あのころは喧嘩ばかりだったけれど、私たちにとってそれは唯一のじゃれあい(殺し合い、とも言いますね)だったのですから。その少ない時間で私はあなたを好きになっていました。

では、現在はもう好きではないのか、と問われますと、答は否になるでしょう。私は今でも、あなたの優しさを忘れきれていないのです。ですから、正確に言うならば、過去のあなたをまだ引きずっている馬鹿な女、といったところでしょう。

もう言いたいことはわかりますよね。単刀直入に言わせていただきます。

下らねーことやってんじゃねー、早く戻れバカイザー。








二年もの歳月を経ると、人は変わらずにはいられない。それもあいつはわかっているはずだ。それでも変わってほしくないと思うのは人間として生きていく上の必然的な思考か。

俺は変わったつもりなど全くなかった。あのときからの欲望に忠実に生きた結果、こうなっただけだ。つまり、過去の俺も今の俺も何ひとつ変わっちゃいない。勿論、あいつに対する気持ちであっても。

今なら言えることだが、俺もあのときはあいつに特別な感情を抱いていた。しかし、餓鬼だった俺には素直にそれを表現することはきわめて難しかった。餓鬼だった、と言うよりは変わらず今も餓鬼である。ほしいものは絶対手に入れてみせる。それが世界であっても、あいつの心であっても。

とどのつまり、俺は今もあいつがほしいのだ。少し大人いようがいるまいが、俺は変わらずあいつが好きなのだ。俺は二年前よりも達者になった文と字の手紙を握りしめ、今は城と化した屯所を飛び出した。







ゼイハアと苦しそうな音が聞こえた。振り返りはしなかった。誰だかすぐにわかった。

「馬鹿アル、お前は。」

否定もなく、息づかいの音が耳についた。

「私、今のお前は好きじゃないヨ。」

「俺は好きだぜ。」

「ふぅん。」

風が吹き、私の長くなった髪が靡いた。それが沖田の身体をくすぐる。彼はその一束の髪を掬い、そっと手のひらにあそばせた。

「俺は昔から欲望を持って生きてんでィ。今はその内の一部を叶えれて、少し立場が変わった、それだけ。」

「そうかな。私は、昔の沖田はそんな悲しそうな眼はしてなかったと思うアルヨ。」

「きっと、お前がいなかったからだねィ。」

「そうだと嬉しいネ。」

ガクン、と肩を引かれた。持っていた傘が地面に落ち、それとともに唇に温かいぬくもりを感じた。少し驚いたけれど、抵抗などしなかった。目を瞑ることもなく、沖田の綺麗な顔を見つめた。

「欲望、そのいち。」

沖田は唇を離して言った。

「お前がほしい。」

「偶然、私も。」

彼はいつも通りに唇を歪め、ちらりと歯を見せた。そのときの眼が爛々と輝いていたのは気のせいではなかった。

「そのに、世界がほしい。」

「頑張れとだけ言っておくアル。」


世界崩壊開始





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