信じられない。まさか、お前がいなくなる、なんて。
だって、夜兎の私に劣らないほど強いお前が死ぬわけなんてあるはずないでしょ。想像さえしたことない。ただ私は、土方の言葉を他人ごとのように冷めた気持ちで聞いていた。
何言ってるアルか、馬鹿みたい。アイツを殺せるのは、この私くらいヨ。
ピッ…ピッ…
無機質な音が、しんとした個室に響いていた。白い病室だった。真ん中にあるベットには沖田が酸素マスクをして横たわっていた。
綺麗な栗色の髪はいつものように艶めかずにくすんでいるし、あのあかい眼も閉じられている。何よりいちばん違っていることは、右肩から左の脇腹まで大きく裂けた傷があることだ。包帯で隠れて見えないが、命に関わるほどの重傷らしい。否、命は助からないという。この人は沖田じゃない、そんなことを思ってしまった。
ゴリや土方、新八、銀ちゃん、真選組の隊員たちも黙って下を見つめている。あまりに痛々しくて見ていられないのだろうか。それに反して、私は目を離すことは出来なかった。尽きる命を、最期まで見届けなくてはならない、と思った。
「……うっ、」
「そ、そう、ご!」
沖田が顔をしかめて呻いた。土方が名前を呼ぶが、沖田は顔を歪め、死ね土方、と、か細い声で罵った。
ゆっくりと瞼が開いて、あかい瞳が露わになる、と思ったら、暗い色で焦点の合わない朧気な瞳が見えた。
「総悟!総悟!」
ゴリが涙を流しながら大声で叫ぶ。隊員たちも隊長!とかすれた声を上げる。涙している者もたくさんいた。しかし、そんな彼らに目もくれず、沖田は呟いた。
「チャ、イナ……。」
涙が零れそうになった。なぜ私を呼んだのかはわからないけど、それが無性に嬉しかった。
「馬鹿沖田。お前は、弱いアル。」
「…しってら…ァ。」
「私以外の奴に殺されるなんて、弱すぎネ。ガッカリアルヨ。」
「………ああ。」
「お前は私が殺したかった。」
「俺…も、お前を…殺したかっ…た。」
「未練なんて持たずにさっさと成仏しろヨ。幽霊になって出てきたら許さないアルからな。」
「わかった…。」
「じゃあな。」
酸素マスクを剥ぎ取って、沖田の色のない唇に噛みついた。
さよならのかわりに