「愛って、何。」

形のよい唇がつぶやいた。頬杖をついて向こうをみる沖田の横顔が夕焼けに紅く染まる。

「何だろネ。」

私も沖田が見つめる方を見た。そこには夕焼けの紅い色と夜の碧い色が混ざった境目で、幻想的なグラデーションに思わず眼を奪われた。

「きっとあんな色してるんだろーな。」

「そうなのかな。」

愛はあのように綺麗な色だということ?それとも、あのようにいろんな色を持っているということ?たぶん、後者だろう。

「愛は憎しみに変わったりもするからねィ。」

「よくわかんないヨ。」

「俺も。」

沈みかけた太陽は夜の碧を大きくしていき、夜兎の私にとっては過ごしやすい気候になる。私が夜兎じゃなければよかったのに。傘なんていらない。真っ蒼な空を仰ぎたい。でも、私の思いとは裏腹に、碧い空は広がっていく。

「沈んじまった。」

「うん。」

沈んだところはまだ少し紅い。そのささやかな光も徐々になくなる。

「沖田、あのネ、」

振り向いて沖田を見ると、言葉が止まった。なぜならば、沖田の眼から雫がこぼれていたからだ。

「おき、た……。」

「何でもねェ。気にすんな。」

指先で軽く拭い、沖田は背中を向ける。私も何も言わずに、きらきらと光り出した星を眺めた。

「……時々、哀しくなる。」

「………。」

「時間の流れが、怖くなる。」

「………。」

「終わりたくないのに、終わっちまうのが怖い。俺は沢山の人から時間を奪ってきたけど、そいつらも怖かったのかなって思うんでィ。」

わかるヨ、なんて思わないし、言わない。そんな軽々しい言葉で終わらせちゃいけない。

「時は進んでくんでィ。失ったもんは二度と帰って来ねーんでさァ。」

「それは、違うヨ。」

自分で思った以上に大きな声だった。沖田は驚いた顔で私を見ている。

「帰って来ないものもあるけど、そんなのほんの一握りヨ。夕陽だって、今は沈んじゃったけど、明日になったらまた見れるアル。明日が雨だったりして見れなくても、見えないだけでそこにあるネ。」

「でも、」

「でも、じゃないアル。要は心のあり方だってことヨ。怖い怖いなんて思ってたら、怖くもないものまで怖く見えてくるアルヨ。」

「………。」

沖田は黙って俯いた。しまった、と思った。でも沖田はもう一雫涙をこぼすと、いつもの憎たらしい顔でにやりと笑った。

私も歯を見せてにかっと笑った。





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