「夜は明けないべきだと思うの」
「へエ」
「夢が壊れないように」
「しかしずっと、空虚な夢の中に居るって云うのはねィ」
「沖田ってやっぱり莫迦、判ってない」
「じゃあ神楽さん、あんたは何でそんなに夜が好い?」
「覚めない夢は空虚じゃないでしょう。空想でも幻想でもない、其処が現実になるのよ」



彼女の云う「夜」は、只、陽が沈んだ暗闇を指しているんじゃ無いと思った。彼女が一体何を思ってそれを言ったのかは、知りたいとは思わないけれど。彼女は若い、しかしこんな所で毎晩、表とは言い難い仕事をしている理由もまた、知る意味も無い。俺が知っても、彼女の抱える何かを、救える訳が無い。俺は単なるホストで、彼女はそのオーナーに過ぎないから。



「じゃあ、ソウゴ、今夜もお客様に夢をみさせてあげて」
「わかってまさァ」



彼女が俺をソウゴと呼ぶとき、彼女はひんやりと冷たい気がした。だけど俺はその冷気が嫌いでは無かった。夢を失くした彼女の、夢に溺れる女たちに対する精いっぱいの僻みなのだ。







「あんたは夢などみちゃいない」
「そうね」
「それなら、あんたの夜はいつ明けた?」
「わたしの夜は明けないわ。ただぐっすりとふかく眠っているから夢を見ないだけ」
「それって、死んでるのと何が違うんでしょうね」
「違わないわ、なにも」











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