「あんた」
「え」
「ひょっとして」
「何、ですか」
「‥何でもねえ、悪い」
「はあ」
掴まれた手が、じんじんした。

***


「知らない男に声を掛けられた?」
「うん、今朝駅で。高校生だと思う」
「ナンパじゃない」
「そういう雰囲気じゃなかったの」
「どんな?」
「何だろ、人違いされたみたいな」
「それはないでしょう」
私もそう思う。色素の異常か何かで私の髪は人とはかなり色が違っているからだ。瞳も同様に奇抜な色をしている。私と同じ髪と眼を持っている人なんていないと思う。
「あ、その人も」
「何?」
「髪が、不思議な色してた」
「染めてるんじゃない」
「わかんないけど」
あの真剣な瞳は、何だったんだろう。忘れられない。明日も今日みたいに、少し早めに家を出ようか。


***


「知らねえ女に声掛けた?」
「女っつうか中学生くらい」
「ロリコンかよ」
「そんなんじゃなくて」
日本人らしくないあの髪と瞳を知っている。何でだろう。
「絶対に会ったことある」
「頑張れロリコンストーカー」
「ぶっ殺されたいのか」
酷く懐かしいような、哀しいような感情が胸に残っていた。明日また、会えればいいなと思った。


***


規則的な振動の中、うとうと、眠りの淵をさまよう。通勤ラッシュの前は、静かで心地よい。フと、眠りの方に大きく揺れたとき、一瞬だけ夢を見た。あの男だった。黒い服を着て、刀を持って。柔らかく微笑んでいた。
ガタン、車両が揺れ、ハッと目を覚ました。ポロリと一粒だけ、涙が出た。その途端、弾けたように哀しみと会いたいという気持ちが溢れてきた。わからないけれど、ただ、私はあの人を知ってるんだということだけは、感じた。
「あ‥」
彼が電車に乗ってきた。お互いに目を合わせて、知っている間柄であることを、確信した。
「おきた」
「え?」
「おきたでしょう」
「おきた、そう、俺はおきただった」
「久しぶり、おきた」
「久しぶり、かぐら」

ポロポロリ、また一粒ずつ涙をこぼして、それから手を繋いだ。








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