夕焼けが綺麗だ、なんて、柄にも無いことを、思ったりもした。
それはきっと君の眼玉が悪い
何となく、今の俺と云う物を考えてみた。
眼を瞑ると、朧げに見える、故郷の景色。あの頃の俺。
多くが抜け落ちたその記憶と、今の俺に、果たして共通点は在るのか知らん。
と、考えるなど、それらが今の俺を創ったのに、あまりに他人事だ。
しかし、それは幾らか正しい。
確かに在った、あの頃の俺は、今の世界のどこを捜しても見つかる筈も無く、在ったと云う痕跡は余りにも少なすぎるのだ。
記憶が違えば無くなるその俺自身は、存在していたのかも危うく、容易く消し去ることができるのだ。
「お久しぶりですね、沖田さん」
にっこりと、にんまりと、図れぬ笑顔で、彼女は俺の顔を覗く。
その綺麗な夕陽が彼女に重なり、影となる彼女の表情は尚更読めない。
「屯所にも居なかった様で」
「遠征でしたから」
「それはお疲れ様です」
ふいと、彼女が視界から外れた。俺の隣に座った様だ。特に話すことなど無いだろうに。
川の水面に赤が燦めく。頭を空にするのは得意だ。美しいものを見れば良い。
「哀しいですね」
「何が哀しいんですかィ」
「奇麗なので」
水面と同じ様に、赤く染まる彼女の横顔を横目でチラリと見た。ああ、確かに美しく、けれど哀しい。
「かと言って、醜いものが嬉しい訳じゃあ無ぇでしょう」
「醜い位が気が楽です、きっと」
だから、と、彼女は続ける。彼女の声は水面を駆ける水紋の様に、澄んでいる。
「美しく在ろうなんて、思わなくても良いんですよ」
彼女は奇麗だ。今在る美しさだ。けれども彼女は哀しいだけでは無い。哀しくも、楽しくも、嬉しくもある美しさを持っている。きっとそれは、醜さを乗り越えて在る美しさだからだ。
「俺には到底無理で、程遠いものですねィ」
彼女は哀しそうに、そうですか、と言った。やはり美しい。