※おほもです 3Z沖銀
オゾン層が破壊された空は、それはそれは深くあおいらしい。
「それってきっと、すごく美しいんでしょうねィ」
「あ?やめなさいそんなこと言うの。環境破壊だぞ?」
「でもそういう壊れかけのものがいちばん美しかったりするんでさァ」
「それとこれとは別だろ」
沖田は変わったやつだった。きっとあいつは頭がよかった。だけどズボラで、面倒臭がりで、結局テストの点数は上がらないままだった。
「壊れかけのものはもうすぐ壊れてしまうから、その壊れかけである状態はそろそろ終わっちまうんです。つまり、その壊れかけは、そのときだけのものなんですよ。ちゃんとしてるときよりも、壊れたあとよりも、ずっと短い」
「特別感?」
「そう、とくべつ」
視点が変わっていた。高校生にしてはずいぶんとおかしなことばかり見ていた。性格が曲がっている所為でもあっただろう。でもそんなあいつは面白かったから、話すのは嫌いじゃなかった。
「特別感は他のものとは違うから特別みたいに感じるけど、一歩引いて考えたら、別に何も大したことじゃあない」
「よくわかんねえわ」
「壊れかけの地球は特別だけど、無限にあるうち、たったひとつの星が幕を降ろそうとしてることなんて、全然綺麗でもなんでもねえってことでさァ」
「宇宙規模だな」
「だってそれだけが確かにあるものだから」
こいつは頭がよかった。きっと言っていることはでたらめだった。だけど、話すのがうまかった。信じこませたり刷りこませたりするのが、異様にうまかった。
「だからねィ、つまり、俺が何がいいたいのかっていうと」
沖田はくるりとこちらを向いてにっこりと微笑んだ。たぶん、こんなにしかと正面から顔を見たのは初めてだ。
「この学校を卒業しかけているっていう特別感に騙されて、なんだかちょっと愛おしく感じているからこんなことしちまうけど、きっとそれはただの特別感でしかないから気にしないんでほしいんですよ」
沖田は俺の後頭部を掴んで引き寄せた。なんというか、唇がぶつかった。生憎俺の方が背が高いから、こいつが背伸びをするかたちで、あんまりかっこいいもんじゃなかったけど。
「じゃあな、サヨナラ、せんせい」
卒業証書の筒を肩にポンとのせながら、にやりと笑った。
ほんと、こいつは頭がよかった。
ダークブルーとO/120911