丸で、それはな、死、みたいだったんだよ。




だって、防いでた、あの刀がさ、もう俺に刺さりかけてたんじゃん。俺がそんとき、ちょっと力を抜いてたら、俺は御陀仏、ご愁傷様、なあんて、言ってもらえる生き方、してねえけどな。何で笑ってんのって、哀しいから、笑ってんだよ、わっかんねえのか、ばあか。

そう思えばさ、生と死って、紙一重じゃん。死は、生きてる間、ずうっと着いてくるんだ。寝てるときも、飯食ってるときも、トイレにこもってるときも、いつ死んだって、可笑しくないんだよ。生きる為にしている、行動の途中で死ぬなんて、ばかばかしいなあ、笑えるね。こんなの、死んでるのと変わんないだろ。だから俺、そんなときには死なねえことに決めたんだよ。絶対、だあれも居ない場所で、ひとりで死んでいく。それが、死と生の区別なんだ、きっと。







あお、としか、言い様のない空の下、何とも言えない表情で、さかたはそう言っていた。まわりは、これぞ焼け野原、と頷きたくなるほど何もなかった。以前、ここは草地だったのだけれど。






さかたは包帯姿で、そこに突っ立つ。あおい空を見上げて突っ立つ。欲しくて欲しくてたまらなかったあおい空を見上げて突っ立つ。





「じゃあ私は今死んでるのかな」




この、あおと地面とそれから私たち以外何にもない空間が嫌で、私は理解していないのに、そのさかたの生死論について訊いた。さかたは何も言わない。




「死ってよくわかんないよ」




さかたは何も言わない。




「死が終わりなのかな。それとも、終わりがないものなのかな」



さかたは何も言わない。




「でも、死と同じの戦争が、終わったね」



さかたは何も言わない。



「じゃあ、死が、終わったってことかな」


さかたは何も言わない。だけど、首をゆっくりまわして、さかたの何とも言えない眼が私をとらえた。



「俺、お前が嫌いだわ」



さかたはそれだけ言って、歩いて行った。私はその姿がまめつぶになって見えなくなるまで、ずっと見つめた。最後は白しか見えなくなった。





さかた。名前を訊いたら、さかたぎんときとだけ言われた。だからさかたと呼んだ。どんな字を書くのかは知らない。阪田酒田坂田佐方佐潟。どうだっていいことだ。



私のことが嫌いなさかたとは、きっともう死ぬまで会うことはないだろうなと思った。つまり、さかたと会う私は今、終わった。そして同時に、さかたと会わない私が今始まって、終わりなく続く。ねえその間のどこに、死は在るのでしょう?




だけど、さかたの言う様に、死の境目がないのなら、ひょっとしたらまた、私とさかたはまた会うのも知れないなあと思って、私はこの、あおと地面と私以外何にもない空間を終わらせて、ひとりで歩む私を終わりなく始めた。








エンドレス/120622







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