10

不死川がかつての恋仲を見つけたらしい。正直なところ俺は数度見かけたことがある程度であまり当時の彼女のことを知らなかったのだが、大切な友人である不死川の好い人であるということは、俺にとっても大切な人であることには変わりない。不死川はそのかつての恋仲が今世では生徒であるからと落ち込んでいるようだった。記憶についてもわからないという。色恋ごとは正直よく分からないが、漸く巡り会えたというのに、立場上歯痒い思いをしている不死川を見ているのは些か辛いものがあった。どうか、今世でも結ばれてほしいと切に願う。

----------

俺は毎朝指導のために校門に立ち、登校してくる生徒に目を光らせる。手には竹刀を握っているが、これはもはや半分癖のようなもので、帯刀している方が落ち着くのだ。

「竈門、ピアスを外せ。嘴平、服を着ろ。おい、竈門妹、お前もパンは食べてからこい」

前世からの付き合いである彼らだが、今世には今世の、学校には学校の規律があるので情けをかけることはない。と言っても、一向に改善されることのない様子からして、このやり取りはただの恒例で、挨拶のようなものだった。

「冨岡先生、おはようございます!これは父の形見なので外すのは無理です!」

元気よくお決まりのセリフを言って述べ、半裸の野生児と、フゴフゴ話す妹を連れて下駄箱へ向かっていく背中を、俺はもう注意する気にもなれなかった。こんなことでは教師として失格だ。

その時、そんな俺の様子に隣から恨めしそうに視線を送っていた、校則違反の頂点のような髪色をした我妻が「あっ!」と声を上げた。

「苗字さんだ…」
「苗字?」

我妻がわかりやすく頬を染め見つめる先には、齢にしてはたしかに大人っぽく、端麗な顔立ちをした女学生の姿。ああ、彼女が不死川の。

「おはようございます」

苗字は俺たちに気付き一度立ち止まってから挨拶一礼をして、下駄箱へと向かっていった。

「綺麗だよなあ…あんな人が、転校してきてくれたなんて。俺の学校生活潤っちゃうなあ…。ね、冨岡先生もそう思いませんか?」

なるほど確かに。惚れやすい我妻は別としても、確かに齢に不相応な容姿と、所作には頷けるものがあった。

「そうだな」
「ですよねえ…って、えぇ?!冨岡先生そういうの興味ありましたっけ?!意外とムッツリなんですか?!というか、生徒ですよ?!うわあー、変態教、ギャ!!」

俺の肯定に喧しく騒ぎ出した我妻に、竹刀を一振りして黙らせると、俺は再び生徒に目を光らせることに集中した。しかし片隅では、少しばかり友人の苦悩を汲み取って、同じく頭を悩ませる。

思わず険しくなった表情を見た我妻が、小さく悲鳴を上げて離れていった。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -