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俺は毎朝指導のために校門に立ち、登校してくる生徒に目を光らせる。手には竹刀を握っているが、これはもはや半分癖のようなもので、帯刀している方が落ち着くのだ。
「竈門、ピアスを外せ。嘴平、服を着ろ。おい、竈門妹、お前もパンは食べてからこい」
前世からの付き合いである彼らだが、今世には今世の、学校には学校の規律があるので情けをかけることはない。と言っても、一向に改善されることのない様子からして、このやり取りはただの恒例で、挨拶のようなものだった。
「冨岡先生、おはようございます!これは父の形見なので外すのは無理です!」
元気よくお決まりのセリフを言って述べ、半裸の野生児と、フゴフゴ話す妹を連れて下駄箱へ向かっていく背中を、俺はもう注意する気にもなれなかった。こんなことでは教師として失格だ。
その時、そんな俺の様子に隣から恨めしそうに視線を送っていた、校則違反の頂点のような髪色をした我妻が「あっ!」と声を上げた。
「苗字さんだ…」
「苗字?」
我妻がわかりやすく頬を染め見つめる先には、齢にしてはたしかに大人っぽく、端麗な顔立ちをした女学生の姿。ああ、彼女が不死川の。
「おはようございます」
苗字は俺たちに気付き一度立ち止まってから挨拶一礼をして、下駄箱へと向かっていった。
「綺麗だよなあ…あんな人が、転校してきてくれたなんて。俺の学校生活潤っちゃうなあ…。ね、冨岡先生もそう思いませんか?」
なるほど確かに。惚れやすい我妻は別としても、確かに齢に不相応な容姿と、所作には頷けるものがあった。
「そうだな」
「ですよねえ…って、えぇ?!冨岡先生そういうの興味ありましたっけ?!意外とムッツリなんですか?!というか、生徒ですよ?!うわあー、変態教、ギャ!!」
俺の肯定に喧しく騒ぎ出した我妻に、竹刀を一振りして黙らせると、俺は再び生徒に目を光らせることに集中した。しかし片隅では、少しばかり友人の苦悩を汲み取って、同じく頭を悩ませる。
思わず険しくなった表情を見た我妻が、小さく悲鳴を上げて離れていった。