リアルのフラグは立つ前に折って投げろ | ナノ
赤井さんの逆襲

職場に行ったら佐伯さんに怒られました。

「何事!?」

「心配で音量マックスにしたまま眠ってて、夜中何度も起きて携帯確かめてるのに全然連絡寄越さないんですからっ…俺がどんだけ心配したのかわかってますっ!?」

「携帯じゃない、君のiPhone」

「っどーでもいいですよ!!」

「譲れない」

「こっちは怒ってるんです、店長…心配させるのもいい加減にしてください。今日1日店舗内に正座させますよ」

「店舗内に!?」

「検索くんのかわりに検索店長さんとしていてもらいます」

「検索店長さんっ!?」

「いいアイディアですね、それじゃあ」

「ごめんなさい、本当すみません、ほうれんそうを怠りません。私が悪かったです、本当…でもコナンくんたちに連絡してくれてありがとうございました!!」

「よし」

っていうやり取りを開店前にすでに正座した私を見下ろしながら佐伯さんとやり取りをしていた。そんなやり取りをバイトの子が見て可笑しそうに笑い、事情を聞いてきたので「誘拐事件に自ら突っ込んだ」という感じで、掻い摘んで説明すると「そりゃ怒りますよ」と苦笑いで言われてしまった。とりあえず開店まで何かしらくどくど言われた後に開店時間になったので解放された

「店長助けに行った人、彼氏さんですか?」

「……う、ん」

どもってしまった…彼氏って言っていいのかな!?え、いいんだよね!?赤井さんおしえて!?私彼女ですか!?堂々と言っていい彼女なの!?顔がポッポと熱くなっていくなか、そんな考えばかりが頭の中をぐるぐるしたと同時に、昨日全然触れてこなかった彼を思い出していっきに落ち込んだ。彼氏って、言っていいんだよ、ね…?

佐伯さんは今日は早めに上がらせて、最後まで残ったのは私だけ。施錠をしっかりとしてから外に出ると、煙草を吸っている彼が、ドアのすぐ横の壁に寄りかかって待っていた

「お疲れ」

「お、つかれさま…です」

「行くか」

「はい」

すぐそこにある自販機の横に設置された喫煙所、そこの中の灰皿に彼が煙草を入れると歩き出した。その少し後ろをついて行くとマスタングに乗り込んで私の家まで行った。車の中でしゃべったんだけど、休憩中に赤井さんと二人で話した通りに夜ご飯はそれぞれ食べておいた、さすがに今から作って食べてだと遅くなるし、お腹もすくからそれが丁度いい。私の家のほうまで来ると、停めていい駐車場の番号を教えてそこに停めてもらった
お礼を言って部屋まで来ると鍵を開けて中に入るように促す。平静を装っているけど本当は心臓がドクンドクン鳴ってる
昼間に考えていた事もあるし、彼から別れ話を告げられたら…そんなバカな、と思いつつ実は付き合ってないとか、そんな事まで色々考える
脱衣所の扉を開けて、浴槽の扉を開けて中を見る、予約をしていたお風呂はちゃんともう出来上がっていたのでそのままリビングに戻った
何の遠慮も無く座っている彼、1.5人用のソファーなのにまるで一人掛けのソファーのように見える。似合うなぁ、なんて思って笑っていると、彼と目が合って彼までふっと笑ってきた

「どうした?」

「あ、いや…お風呂、使うでしょ?」

「…一緒に入るか?」

「えっ!?」

一緒に入る!?本気で言ってる!?明るいところで見られるの!?無理無理無理っ…
あ、でもそうやって言って来るって事はやっぱり昨日のは何の気も無しの私の気のせいなのかな?
なんて思いつつ色々覚悟して一緒に入ったのに…ただ私が髪を洗ってる赤井さんが素晴らしすぎてボケーっとしてキュンとしただけだった。ずるい、私ばっかり赤井さんを好きになっていって、それなのに赤井さんは何か余裕かましてて、大人で…
前はこっちがいやだって言ってるのにもかかわらず無理やり触ってきたり、キスしたり、そんな事ばっかりしていたくせに、いざ手に入ったら手を出さないってかこのやろ!!

アイスを買ってたから、赤井さんにあげた。半分こしようと思って買ったバニラのアイス
赤井さんの前にお気に入りのうさぎの長い抱き枕を抱っこしながら立つと、スプーンで掬ってこっちに差し出してきたから口を開けてそれを食べた。無言の時間…
それなのにどこか落ち着いて、どこか好きで…だけど切なくて、色々な感情がぐるぐるしていて。こっちを見る目も仕草も、笑みも優しいのに、満たされない心、もやもやする

ソファー、赤井さんの足の間が空いていたから、そこにお尻を乗っけて座ると、避けもせずに抱きしめてくることもせずに、ただ私の口の中にアイスを入れる

「美味いな」

「だってお高いアイスですもん」

「ホー」

うさぎをぎゅ、っと握り締めて赤井さんに最後の一口を貰うと、少しだけ私の背中に近づいた彼がテーブルの上にスプーンとアイスの空を置いた。肘掛に腕を乗せて、彼が背もたれに寄りかかると一瞬暖かかった空気が離れていってしまった

「赤井さん」

「ん?」

「あの、何かお話でもあるんですか?」

「……いや、無い」

「えっと、じゃあどうして今日」

「恋人に会うのに理由が必要かな?」

あぁぁ…この人私の彼氏だったぁああ…!うさぎを抱きしめる力を余計に強くするのはこのどうしたらいいのかわからないキュンキュンする感情から逃げたいがため、よかった、恋人だった。よかった…と、思うのになんとなく納得がいかない
いつもなら抱きしめてくる…それなのに今では隙間さえ空いている。どういう事なんだろう、やっぱり手に入ったら別にいちゃいちゃしなくていいや!みたいな感じなのかな、別にそれはそうでいいんだけど…最初のほうがああだったからどうしても不審に感じてしまうし、少し…寂しい気もする

紅茶をいれて、少し談笑して、歯磨きをして…寝る準備をしてから狭いベッドに入った

「あの…やっぱりお布団敷きますよ…?」

「いや、ここでいい」

抱きしめて来ないくせにぴったりと体がくっついてて、赤井さんに触れている部分だけが熱い。そういえば私の家だと赤井さんは赤井さんでいられるけど、それでも煙草も吸ってないし、こうやってベッドも狭いんだ…それなら今度からやっぱり私が赤井さんのほうに行ったほうがいいのかもしれない

「ごめんなさい」

「ん?」

「今度からやっぱりそっちに行きますね、煙草も吸ってないですもんね…」

「あぁ、口寂しいな」

「ですよね…」

彼の方を向いて、お互いがお互いのほうへと横を向いて話していた。本当に赤井さんきつくないのかな、なんて思いながら彼を見上げると、視線をこっちに向けてきた
もっとぎゅってすればまだ隙間空くのに、なんでして来ないの。「ん?」と問いかける赤井さん、もう部屋の中は真っ暗で、少しだけカーテンから外の光が漏れて目が慣れたから一応見える

「あの、どうして…」

触ってこないんですか?って、聞いてもいいかな。何か触れって言ってるみたいではしたないかな、口を閉じて言いよどんでいると彼が身動ぎをして「どうした?」と問いかけてくる…それでも続きを言うのは難しくて「うーん」と声をあげてしまった。
でもせっかくこうやって二人でのんびりいるわけで、私もぎゅーってされたいわけで…問いかけないと、何も始まらない気がした
とりあえず、だ。言葉にするより行動をしよう、と思い、彼の服をぐいっと引っ張って顔をあげると目を閉じた

どーだ!

しばらく待ってるのに何もなし、そっと目を開けると赤井さんは私を見ているだけだった。「ん?」と言って…そんな、そんな、今のがわからないほど鈍い人じゃないでしょー!!!!

「もういい、おやすみなさい!!」

彼に背中を向けて挨拶をすると、ベッドがゆらゆらと揺れた。それは彼が笑っているのだろうという事はすぐにわかった。唇を尖らせて知らないふりを決め込むと、彼の腕が私の腹部に回る

「触ってていいのか?」

「何言って…あ」

この間私が触ったら赤井さんの所に来ないって言ったやつか…

「あれは、あの時は…仕事だっていうのに赤井さんがしつこいから言っただけです…」

「触るな、って言われるのはさすがに堪えるだろ。でも、戸惑っている可愛い君が見られたから少しは得だったな」

「意地悪!恥ずかしくて死ぬかと思いました!!」

彼が腹部から肩へと手を動かし、それからころん、と私を仰向けにすると上に覆いかぶさってきた。「キスだろ?口で言えばいくらでもしてやるさ」ククッ、と笑う彼が私の唇に唇を重ねた、ちゅ、と音を立てて一度離れて、もう一度角度をかえて私の唇に彼のが重なる。彼の唇は最初は冷たい、それなのにそれが段々と熱を持ち始めるから私のが移ったんだと錯覚するんだけど、熱いと感じるという事は彼のほうが熱いって事

唇を離しては時折視線を交差させて、それから甘く笑って見せる彼は、言わないと何もしてくれないらしい。唇を重ねるキスばかりで、もっと深くまで欲しいのにくれない
それなのに煽る行為ばかりしてくるから。私は彼に触らないで、といった事を酷く後悔した



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