序章
「だめ!!」

信号の無い横断歩道、停まってくれた車に私と小学生の子供二人が同じ方向から渡ろうと足を進めていった。まるで親子のように三人揃って停まってくれている車の前で軽く会釈をしつつも、なぜか全員が小走り。少しだけ和んでしまうこの空間、しかも一緒に並んで歩いてしまっている私に「何このおばさん」という表情をしない子供をありがたく感じながら停まっていた車の前を先に通り過ぎたのは私。小学生は停まってくれたから、疑いも無く渡り終えるつもりだったと思うし、私もそのつもりだった。先に反対側についた私はそのまま足を進めていくつもりだったのに、クラクションの音が聞こえて振り向いた。
道路にしゃがんで何かを拾っている子、その傍らで前かがみになって一緒に拾っているもう一人の子…クラクションを鳴らしていたのは停まっていた車で、すぐに何で鳴らしているのかわかった。子供たちのほうに私が飛び出したのと、子供たちが立ち上がったのはほぼ同時
それでも停まっていた車を抜かしてきた車はブレーキさえかけてないんだろう、ブレーキの音さえ聞こえないまま、走って子供たちを突き飛ばした私の体にぶつかった



痛くは無かったと思う。そもそもで覚えていない
気づいた時には真っ白な世界で…私は裸体だった。寒くは無い、寒くは無いけどお風呂場でもないのに自分が裸体でうろうろするのは避けたい。ぶつかった時服は着ていたし、私は裸でいる趣味は無い。せめて白い着物のようなものを身に着けるのがこの世界のセオリーじゃないの?
それとも今から服が出てきて?この中から好きなの選びなさいっていうパターンが?
一人で悶々と考えつつも私はうろうろしたくなくて足首あたりをクロスさせるようにして体全体を隠すために体育座りをしていた。何も無い世界、でも不思議と不安を感じないその場所にどうしようかと膝に額をつけた時、何か風のようなものの音が聞こえて顔をあげた

目の前にあるのは水色の丸い人魂のようなもの。綺麗だと感じてしまうそれを凝視していると、その光がくるくると円を描くように回った。ここはゲームの定番、これに触れればパアッとあたりが光って違うところに行くんでしょう!?なんて立ち上がろうとしたその時だった

パンパカパーン!
またあなたですか!

「え」

口も無いのにしゃべりだした目の前の丸いサムスィング。声は直接脳に響くとかそんなよくある事は無く、普通に誰かと対話しているような感じ。サムスィング全体がしゃべってる感じだから、もしかしたらこのサムスィングはこの真っ白な世界の口の部分なのかもしれない。そうならこのサムスィングが唇じゃないだけだいぶマシだ
それは置いておくとしても、このサムスィング「また」っていう気になる単語を出した。私は今まで死んだ覚えは無い。あ、でもよく魂は巡るっていうからもしかしたら前世とかいう私もこのサムスィングに会っているのかもしれない。考えている私をお構いなしにサムスィングは続ける

しかもまた人助けですか…良い行いばっかりですね
しかもしかも…、なぜかこの世界だと20歳前後で死ぬのか…
って事はやっぱりここだね。よし、では、転生させてあげます、今流行ってるから

「流行って…」

じゃ、そういう事でさようなら

意味がわからない。このサムスィング一人で勝手に納得して私にさようならと来た
言葉通りに私はどうやらさようなららしく、下に空間が開いて落ちていく。落ちている間に私は眠っていたらしい

これが私の前世と呼ばれるものから今の私に変わるまでのお話



ついた世界は何の変哲もない世界。東京からは新幹線を二本ほど乗り継いでじゃないといけないわりと離れたところで育ち、社会人になってから憧れの東京にやってきた
あこがれた理由は昔と変わらずオタクとしてイベントに行ける、田舎にグッズの一部は入ってこないし、カフェもたまにやってくれない、でも東京ならほとんどやってくれる、東京でやってなくてもちょっと電車に乗ればまたやっている場所にたどり着ける。だからこそ研修を終わらせた私の配属先が東京になったのはいろんな意味で運命だと思った

―運命、だって。



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