忙しいと言えば忙しいが、彼女との時間もあったしそこまですれ違いをしていたわけでは無かった…過去形。今は再び彼女が眠っている間に帰ってきて、彼女の寝顔を見つめて隣で寝て、また彼女が眠っている間に出ていく感じになっていて、会ってはいるが実質話が出来ていない。
何日かに1回彼女を起こす勢いで抱きしめたりすると、寝ぼけてるのかなんなのか「おかえりなさいー…」と言いながら抱き締め返してくる。それだけで愛しい

もう彼女と結婚して一年になったからその前に色々片付けたくて本庁にこもっていたら、裏理事官…つまり俺の上司みたいな人が顔を出した

「降谷」

「はい」

挨拶の前に呼ばれ、立ち上がって部下たちが挨拶する中彼に歩み寄ると俺も挨拶を済ませた。こんな所で何をしているのかと問いかけはできないので彼が話すのを待った

「なまえくんを仮眠室に運んだ。さっき道端で具合い悪そうにしているのを、男の子が一生懸命泣きながらお姉ちゃんがまた死んじゃうって助けを求めて来たんだよ。それで救急車でも呼ぼうかと思ったらなまえくんだったから連れてきた」

また?
疑問に思うことはあるが、彼にお礼を言って出ていこうとしたのに、彼が話を続けた

「運んでいる時にその男の子が気になることを言ってたし、ドトールで待たせているよ。今彼女は眠っているから聞いてきたほうがいいんじゃないかね?」

「ありがとうございます」

彼にお礼を言うと、今度こそ彼が先に行ってしまったので、風見だと具合の悪い彼女にはよくないかと思い、他の部下に彼女の事を頼むとドトールへ向かった。一人でいる男の子は一人しかいないのでそっちに歩み寄っていく

「お姉さんを助けてくれたのは君かい?」

男の子が頷くのでその子の座る席の前に座った。裏理事官はちゃんとその子にジュースを買ってあげていたようで、ジュースを飲んでいた。こっちが何かを聞く前に彼が質問をしてくる

「お姉ちゃんの…旦那さん?」

「そうだよ」

旦那という言葉が出てくるとは思わなかったが最近の子だと何も珍しくは無いのかもしれない。頷くとその子は笑った

「そっか。あのね、僕お姉ちゃんに助けてもらったんだ…道路に飛び出した僕を助けてくれて、お姉ちゃんが代わりに死んじゃったの。僕20歳までしか生きられないって言われてたからお姉ちゃんが助けてくれなくてもいつか死んじゃってたのに、お姉ちゃんが助けてくれたから…頑張って25歳まで生きたんだよ!」

「夢の…話し?」

彼が首を振って「前世」と呟いた。目を見開く
前世?って、別に信じていないわけでもない、幽霊の類は俄に信じ難いものだが、前世というのは別に…ただそれが目の前で記憶を持っているような口ぶりの男の子が現れたらいっきに信じられなくなる。なんの冗談だと思ったら、彼はこっちが信じてないのをわかっているようでジュースを飲んでから再び話し始めた

「お姉ちゃん、さっきそこで気持ち悪そうに蹲ってて…最初顔見てないから大丈夫?って声をかけたんだ。それでお姉ちゃんが顔をあげて僕を見てびっくりしてたんだ「私助けられなかったの?」って。それで全部思い出したんだよ…お姉ちゃんがトラックの前に飛び出した僕を後ろに投げたの、僕はそこに信号待ちしていたたくさんの人にドミノみたいにぶつかったから少し怪我しただけで、お姉ちゃんは真っ赤になった。ありがとうも、何も言えなかったの。お姉ちゃん、もう死んじゃってたから…お姉ちゃんにありがとうって伝えて欲しいんだ。お姉ちゃんが最後に持ってたゲームとかの中から、マンガの名前だけ教えてもらったの。それからね、お姉ちゃんが大事にしていたものを手術の時に持っておきたいからくださいってお願いしたんだ。お姉ちゃんが死んですぐに…お姉ちゃんの大事なブレスレットをお守りにもらったんだ、英語でAMUROって書いてあるやつ。でもお姉ちゃんが持っていたはずのものも、そのマンガも全部…僕達の世界から消えた。ブレスレット以外のものは、全部」

頭が追いつかない。なまえが死んだ?前世で…前世から俺を知ってる?調べたら俺が出てくるって…あぁ、もうわけがわからない
考えていると風見が走ってきた

「降谷さん、なまえさん高熱ですし、トイレで吐いたりしているそうです!」

「すぐ行く。風見、この子を家まで送ってくれ…話しを聞かせてくれてありがとう。お姉ちゃんの事は大事にするし、俺が守るから大丈夫だよ」

「お兄ちゃん、カバン見てみて。お姉ちゃんのカバン」

風見に彼を任せてから彼女のいる仮眠室へ行ってる途中に、女子トイレをのぞき込む部下二人がいた。俺からみたら多分中になまえがいるんだろうけど、知らない人からみたら変態だぞ

「降谷さん」

「なまえですか?」

頷くと、彼女が出てきた。俺を見てきたけど来ないで、と手で制されて口を濯いで目の前に置いていたペットボトルの水を飲んだ。それを手に持ってふらふらとこっちに歩み寄ってきて、俺の胸に額を寄せてきたそれから服をぎゅっと掴む

「大丈夫ですか?」

「ごめんなさい、私臭いかも…」

「仮眠室に運びますよ」

「仮眠室はいや!臭い!れーさんにくっついていたほうがいいです…」

仮眠室が臭い?たしかに良い匂いではないが、臭くも無かったはず。とりあえず彼女を抱きかかえて会議室へ入った。会議室の椅子に座って彼女をよこむきに座らせると、俺の首に手を回したまま寝てしまった。本当に彼女はすごく熱い、部下に彼女のバッグを持ってきてもらいその中を見た

「救急車呼びますか?それか降谷さん仕事抜けられないなら俺が乗せていきますよ」

「あぁ…いや、仕事は抜け…る…」

バッグの中に入っていた財布以外には手帳とかハンカチとかいつも通りだったが、手帳が二冊あるのでそれを引き抜いた

「なまえ」

「んー?」

彼女の背中を軽くポンポンと叩くと、彼女が声をもらした。もう一度ちゃんと起きろというように彼女の背中を叩くと、彼女が体を離した後にもう一度抱きついてきた

「妊娠してるんですか?」

「うん」

「…ご飯食べてますか?」

彼女が「今日は無理」と呟いた。
いつから食べて無いんだ、食べて無くて吐いて?高熱って
彼女を抱きかかえて「おめでとうございます」という部下にそれどころじゃないと伝え、俺の荷物を持ってくるように言えば車に乗り込んだ
部下が荷物を持ってきて、風見もちょうど車から降りてきたので後を頼んだ







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