彼女と降谷さんが結婚してから、降谷さんはほとんど機嫌が良い。悪くなるとしたら何日か家に帰れない日が続く時だけで、だいたい限界は二日らしく、一日だけの丸々仕事だというのはまだ耐えられるらしい。朝早めに来て夕方は早めに帰ったりと、彼の体調も良いようで、顔色はすこぶる良い
夫婦円満なのは良い事で、降谷さんの徹夜の時のあの彼女欠乏症もしばらく見ていないが、二徹目でよく彼女の話しをしだすくらい。それを聞くのは俺の役目ではなく、彼の恋愛話を聞くのが楽しい降谷班の三人、あの三人はどうせなら何日も徹夜をして壊れかけた彼を見るのが楽しいのだと、たまに仕事を増やそうと目論んでいたりする。

そんなある日、しばらく平和な日々が続いた…しばらくと言ってもだいたい1ヶ月くらいだが
降谷さんが仕事に来る少し前の事。俺たち降谷班は彼よりも少しだけ早く出勤するため、そのニュースを見ていた

今現在、婦女暴行殺人事件の犯人だと思われる男性が逃走中。この婦女暴行殺人事件の犯人は複数犯だと思われ、犯人だとわかっているのは現在2名…
刑事の管轄で、ただの逃走中だというだけならまだしも、いまだに犯行が続けられているらしく、殺人とまでは現時点でいっていないが重傷者が何名も出ているらしい。その被害者が言う犯人像がどれもばらばらで確定が出来ていない

「今か」

「今ですね」

刑事はかなりの人数が出ているらしいが、捕まって無いって…もう少しやり方があるのではないか。テレビでは簡単な情報しか出ていないのでそれぞれパソコンで見始め、その状況を確認していると「被害者が杯戸町に」という文字が見えてさらに死者もついに出たらしい
降谷さんが仕事場に来ると、俺たちが見入っているニュースを見て問いかけてきたので頷いて答える。自分たちに今のところ直接関係は無かったが、杯戸町という文字が見えたので降谷さんに視線をずらした、彼は今の事件の事を見ていなかったのだろうか、顔色一つ変えずに書類に目を通していた

「降谷さん」

「なんだ?」

「みょうじなまえって今どちらに?」

「……降谷だ。そろそろ家を出た頃じゃないか?」

わざわざ言いなおさせようとしなくてもいいだろうが、彼がこだわっている様子なので言い直した

「すみません降谷なまえさんの、彼女の職場ってどこですか?」

「南杯戸駅の近く…どうした?」

「いえ、先ほどの婦女暴行殺人事件の犯人が、多分杯戸町に入ったのではないかという情報が入りまして」

そういうと、降谷さんの眉が一瞬ピクリと動いたかと思えばiPhoneを取り出しながらパソコン画面でマップを出し、iPhoneを耳にあてつつパソコンを操作していた。大方みょうじさん…なまえさんに連絡でも取っているのだろう、そのうち繋がったようで彼がほっと息を吐いていた

「なまえ、今日仕事場まで送って行くからそこの近くの店に入ってて」

マップに出ている赤い点が地図上で立ち止まり、それからゆっくりと動き出した

「いえ、何か今不審者が出たとかなので…なまえ?」

その赤い点が元来た道を戻って彼の指示通りにお店らしき場所へと向かって行った。
これは多分彼女の居場所でも知らせている所なのだろう、降谷さんが耳にiPhoneを当てたまま動きが止まったので彼の表情を伺うように見てみるとiPhoneをそこに置いて、パソコン画面に見入った

「どうしたんですか?」

「ガシャンッて音がしたと思ったら電話が切れた」

赤い点はしばらくしてからお店の外に出て動き始めた

「これは?」

「彼女の指輪についてる発信機…歩いてますね…まったく、じっとしてない。なまえのところへ行く」

降谷さんの携帯でも彼女の居場所はわかるらしく、今度はiPhoneのほうで先ほどの地図を開いていた。降谷さんがいなくなるとなると、結局自分が出来る仕事は自分がやる事になる
最近降谷さんが現場よりもこっちにいる頻度が多いので、そこまで大変な書類の数があるわけでは無いが、彼が抜ける事によってかなりの量が増える。ため息を吐いているとまだそこでiPhoneを確認していた彼が口を開いた

「今のその事件の状況を確認しろ」

「あ、はい。今朝のですね…えっと杯戸町で被害者三人、一人軽傷で二人重傷です。米花町で被害者二人、二人とも軽傷です。緑台駅近くで被害者六人、わかっている犯人は今現在二人ともこっちにいるそうで死亡者二人に重傷者一人、軽傷一人です」

「緑台駅以外の犯人は?」

「いえ、米花町の被害者二人が言っている犯人は若い男の人、杯戸町のは軽傷の人は犯人を見ていないらしく、重傷者のほうは口を聞ける状態じゃないらしいです」

「詳しい内容」

「通りすがりにバイクや車で公園の茂みや空き家に連れていき、暴行やレイプをくわえたあとに殺害…軽傷の人は20代女性、重傷者と死亡者に共通するのは20代から30代の女性で既婚者です」

次々にそれの報告が入る中、降谷さんは椅子にどさりと腰をかけた。iPhoneと睨めっこする降谷さんを見ていれば、降谷さんがこっちのほうを見てきた

「誰かスーツ以外の私服持ってませんか」

降谷さんが飛び出して彼女を迎えにいけない理由、それは彼女の発信機に何らかの違和感を感じ、それがもしも事件ならば降谷としてはその事件に関わったりは出来ない。ただ彼がこうやって聞いたという事は、安室透として外に出るつもりのようで、降谷班が自分たちのロッカーを漁ったりしていた。スーツだと目立つし、現場にいるスーツなんて警察だといっているようなものだ
彼の手がカタカタ震えているのに気づいたが、何も言えない
俺が飛び出してかわりに彼女を迎えに行くと言ったって、きっと納得しないだろう
ガンッと降谷さんが音をたてて机を叩くとパソコンが落ちるのでないかと思うくらい揺れて、デスクの上の書類やペンたてが下に落ちた。俺は私服は持っていない、持ち寄られた服でサイズのあったものを降谷さんが選べばその場で秒単位で着替えを終えた

「残ったものは状況を逐一報告しろ。あとは風見と他5人、お前らも現場に出ろ」

「はっ!」

一緒には行動が出来ないため、こっちは犯人の足がかりになるものを探し当ててあとは現場のやつらに流すだけ。本来ならば公安が関わる事件ではないのだと、彼はわかっているだろうが、降谷さんが動けないなら俺たちが動く。それに今回は凶悪すぎるくらい凶悪だ、上に何かと言われても許されるほどの案件だろう
それに今回捕まらなければ何れこっちに回ってくる事案、だから俺たちとしては何の異論も無い

降谷さんはほとんど走ってるくらいに廊下を通りぬけて駐車場へ行き、エンジンがかかったと思ったらもう発進された
耳につけたワイヤレスイヤホンからは

「現場の刑事からの情報です。南駅前の3丁目の通りにある小さな公園前で白藤社の書類と財布とトートバッグが見つかったそうです、財布の持ち主の免許証に書いてある名前は……あ、むろ…安室なまえです」

それはついこの間、あまりにも毛利蘭という人物と遊ぶ回数が多いので
降谷さんが偽造で作った免許証に使用させている名前だった







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