すると彼女が「食べさせてあげます」と言うので、床にゆっくり足を下ろしてあげれば彼女が床に足をつけて体勢を整えた。タッパを開けて俺の口元に卵焼きを差し出してきたので口の中に入れた
ネギが入ってる出し巻き卵、そういえば彼女が一人で作った手料理は初めて食べたと感動を覚える
「何徹目ですか?」
「三日ですね」
なまえが風見に向かって問いかけると、風見が答える。
なんで風見、俺に聞いてくれてもいいだろ、会話したい会話
全部の卵焼きを食べ終わると、風見がなまえを俺から引きはがすように彼女を引っ張った
「彼の栄養を考えてくれるのはありがたいですが、あなたが来ると降谷さんが公私混同するので来ないでいただきたいです」
「まったくもってそう思います」
それに彼女までもが同意する。公私混同してない、彼女がいるから仕事を頑張ろうという気になれるというのに、この部下は何を言ってるんだと言い返そうとした瞬間
「我々部下一同は降谷さんが大好きなので、降谷さんの嬉しそうな顔を見れると仕事が捗ります!!」
「…だ、そうですよ風見?」
多分ニヤニヤしていたんだろうな、自分の口角が吊り上がるのが抑え切れない。風見のほうと、そこに立つなまえのほうを見て頬杖をついてどや顔してやれば、二人とも仲良くため息をハモらせた。
「いえ、もう来ないようにします。もうすぐどうせ仕事入りますし…風見さん、降谷さんの事はよろしくお願いします」
「ええ。わかりました」
二人が握手をした所でその二人の手を引き裂こうと、二人の手の間に自分の手を入れた。
さっきもだが風見はなまえに触りすぎだ。だいたい仲良くなりすぎじゃないかと思う、いくら風見が自分の部下とは言え、許せる事と許せない事がある、とくになまえの事は全面的に許せる事では無い。俺が風見を睨むように見ていたら、風見が書類を置いてさっさと逃げるように自分の仕事をしに行った
そこにいる俺の肩を持った部下たちは、ジッと俺たちを見ているから些かやりづらくはあるが、二度と彼女に乱暴をさせないためには少しでも彼女といる所を見せたほうがいいのかもしれない
あー…それで彼女の仕事ってなんだっけ。頭が大分回らない
「じゃあ、私行きますね」
「あ、じゃあ俺のスーツのジャケット着てください」
「いや、ちょっと意味がわからないです、なんなんですか突拍子も無く」
「ちょっと思い出したんです、加賀くんのを着て、なんで俺のを着ないんですか!」
彼女が怪訝そうな表情でこっちを見てくるけど、そんな顔も可愛いし好きなのを彼女は知らない。その心底俺の言っている意味がわからないような冷めた目、うん、好きだ
それがそのうち、目をパチパチと瞬きさせて可笑しそうに笑うもんだから困ったものだ
第一部下の前でそんな顔を見せるのをやめて欲しいな
「ふふっ…なんだ、冬の事ですね。何の罠かと思いました…じゃ、帰ります」
「いや納得して帰らないでください。加賀くんが好きとか言わないですよね」
「まったく好きじゃないですよ。嫌いでもないですが…」
「じゃあなんで加賀くんのを着て俺のは嫌がる」
「………」
なまえの視線が部下のほうへ行く。俺も部下のほうへと視線を移した
そんなに見られていたらなまえも何も言えないだろうに、しかもあろうことか部下はニヤニヤしている
「降谷さんのだからですけど…」
「は?」
「じゃあ、降谷さん私の着たらどう思うんですか?」
そりゃ、なまえの着たらとりあえず匂い嗅ぐし、抱きしめられてる感たっぷりで幸せに浸れるだろうし、脱いだ後は脱いだ後でなまえの残り香というか、匂いが服に移っているだろうから歩いている途中になまえの匂いとかして…
「あぁ。なるほど、つまりなまえは俺が大好きだと」
彼女が口を結んで、一瞬目を見開くその顔は真っ赤。
その後彼女が自分に背中を向けて扉から出て行った、何だあれ
「降谷さん、メロメロですね」
「可愛いだろ?俺の」
それで、あれ、彼女の仕事ってなんだっけ。
まだ就職決まってないはずだよなー、なんて思っていたんだが段々頭が考える事を放棄し始めたので最終的に前にいた部下たちに引きずられて仮眠室に投げられた
彼女を抱きしめたせいで時折、服のどこからか彼女がよく塗っているクリームの匂いがした