用意されてる料理を見て彼女はすぐに席についた。多分彼女はこういったものよりもバイキングのようなものが好きだろうが、それだと少し大変なので結局部下が手をつけられるものにどうしてもなってしまう。それでも彼女が嬉しそうにするからいつだって救われる気分にもなる

「安室さん、美味しいですね」

「そう言ってもなまえさん、まだ一口しか食べてないじゃないですか」

「昔魚の骨喉に詰まらせた事があるので慎重なんですよ!」

一生懸命魚に骨をとる彼女はよく見る。それでも綺麗に食べるし、骨を取った後は食べるのが早い。彼女はお酒を相変わらず飲みながら美味しそうに食べていた

「安室さんはお酒いいんですか?」

「ええ。今日はやめておきます」

ね?そしてあなたもあまり飲まないでくださいよー…とは言えないので彼女の食べたり飲んだりする姿を見ていた。彼女は二人きりの時にはれーさん、外にいる時には安室さんとちゃんと言えるようになったし、外で間違える事は絶対無いのでそこは安心だが、たまに二人きりの時にでも安室さんって言ってくるのはあまり面白くは無い。

デザートまでも食べきって彼女がお腹をさすった。「腹八分目です!」まだ八分目なのか…買い物をのんびりしていたせいで、旅館についたのが夕方ですぐにご飯になったのでまだお風呂にも入っていないから、彼女はまだワンピース姿。どんな服を着ていても可愛いのはかわりないが、ワンピースは余計にふわふわして見えて可愛く思える。いつも可愛いんですけど

部屋に戻る前に売店によってお土産を見ていた彼女に、買ってもいいのかと問いかけられた。相手を聞けば新一くんたちだというので了承し、彼女が選ぶのに一緒に付き合った
彼女がレジをしている間に電話を済ませて彼女と部屋の中に戻る
座る前に部下が来たらしく、ノックも無しに開けた。開けた後にもう一度ノックをして入ってくる

「すみません急いだほうがいいと思って順番間違えました」

「…そうみたいだな」

テーブルの上に置かせると今度また同じ事が無いように鍵をかけた。「デザートです」不思議そうにしている彼女にそういうと、笑ってテーブルに歩み寄ってきた。食べきれるくらいの大きさの苺のタルト、あけると彼女が「きゃー!」と声を漏らした
そわそわしているので切ってわけてあげたら彼女が「いただきます」と言ってすぐに食べた。幸せそうに咀嚼をしている彼女に笑うと、彼女が嚥下した後にこっちを見てきた

「これ作ったのれーさんでしょ」

「なんでですか?」

「愛情がこもってる気がしました」

「それで俺じゃなかったらどうします…?」

「シェフの愛情でしたって言います」

「まあ俺なんだけど」

彼女が冗談めいた口調で言ってくるが、ほとんど確信を持って言っているんだろう。何か彼女にバレるような行動をしたのかと思って彼女を見やると、彼女が可笑しそうに笑った「実はれーさん何日か前から甘い匂いしてましたよ」なんて言われる。そんなの自分では気づかなかったのに、彼女は気づいたらしい
彼女にどうぞと自分で作ったケーキを差し出されると口に含んだ、何度も作った苺のタルト。生チョコレートを中に入れてカスタードにも拘った
お菓子はポアロで作ってから、あまり作っていなかったので、自信は無かったが彼女が美味しそうに食べてくれているので満足。小さめのタルトはすぐに無くなって、彼女が俺に抱きついてきた

「ありがとうございますれーさん、美味しかったです」

彼女の肩に鼻先を埋めると、「いいえ」と返事を返した。彼女はすぐに離すつもりでこうやって抱きついてきたんだろうけど、俺は離さない。ぎゅっと抱きしめ返すと彼女が「あれ?」なんて声を漏らしているから可愛い
腕を緩めてあげれば彼女がゆっくりと離れて、それからどちらからというわけでもなく唇が重なった。ちゅ、と音を立ててキスをして離れると、彼女が照れたように…困ったように笑う
もう一度、と思ったらするっと腕の中からいなくなった

「れーさん、温泉行きましょ…」

「……」

「どうしました?」

「小悪魔ですね!」

「え?なんの話し?」

わざと焦らしてるのか、彼女が温泉好きなのはわかっているがそんなに急いで離れてくれなくたっていいんじゃないかと思う。いそいそと準備をしている彼女を無言で見つめていると、こっちを振り向いて小首を傾げていた
あとで覚えてろよ。なんてお決まりなセリフは言わない


まずは部屋のではなくて、大きな温泉。時間を決めてそれぞれ温泉に入り、外へ出ると男の子としゃがんで話をしているなまえと、その父親だろうか…子供の傍らに立っていた
廊下には彼女達の声が響いていてまだ距離はあるがしっかりと聞こえる。

「お姉ちゃんありがとう」

「いいえ。走ったら危ないからちゃんとパパとママと手繋ぐんだよ?」

「ママいないの」

「離婚して、俺が引き取ったんです」

「そうだったんですか…じゃあパパ独り占めできるね!」

「僕お姉ちゃんと結婚したい!それかママになって!お姉ちゃん優しいから好き!」

「あはは、ありがとう。でもお姉ちゃんね、もう大好きな人がいるから」

「その人かっこいいの?」

「そのへんの誰よりも」

「パパよりも?」

「そりゃもう…はっ!ごめんなさい!」

彼女が謝っていて、その人にいえいえと手を振られている所で彼女たちのところまでたどり着いた。「お待たせしました」と一言言えば、男の子に「本当だ!パパよりかっこいい。スーパーマンみたい!」なんて言われた。そりゃ悪い気はしないけど苦笑するしか無い

「あのね、お姉ちゃんがこの人がかっこいいって思うのはこの人の事好きだからだよ。お姉ちゃんのスーパーマンはこの人だけど、君のスーパーマンはパパなんだよ。パパすごいね?」

「うん!!」

俺にはあなたのほうがすごいと思いますよ。
男の子に手を振って別れると、彼女の手を握って歩き出した。いつもの軽やかな足取りどはなくて、スリッパのせいか彼女の歩き方が家の中にいる時のようにパタパタとしていて可愛い

「好きって、あまり言ってくれないので嬉しいですね」

「…嘘!?」

「ええ。まったくと言っていいほど聞かないです」

「安室さんだって…」

「ホー?僕のなまえさんへの愛を疑いますか?」

「ぶっ…いえ、そういうわけではないですけど」

彼女が吹き出して笑った、可笑しそうに笑いながら首を振る彼女。たしかに態度で示していればいいって思ってる節があるが、彼女は態度も口にも出さない…態度は好かれてるってわかるにはわかるが、彼女が照れすぎてたまにどうしようもできない時がある

部屋に戻ったら布団が並べて敷かれていて、彼女がそれの上にダイブしてバタバタと足を動かしている。捲れて太ももが見えてますよ

「気持ちいいー…旅館のシーツって何か家のと違う感じがして好きです」

「じゃあ俺もたまには童心に帰るか」

「どうぞどうぞ」

あまりにも気持ちよさそうにしているため、彼女と同じようにふわふわとした掛け布団の上にうつ伏せで寝転がった。彼女が笑って頬杖をついて、相変わらず足をパタパタと動かしていたが、そのうち彼女がころころと転がって俺のほうへと来たと思えば視線だけで見上げてきた。
抱きしめる以外の選択肢が無い
ぎゅっと抱きしめて彼女の髪に鼻を埋めた。いつも通りに良い匂い。彼女が俺の胸に頬を擦り寄せて浴衣をぎゅっと握っていた
なにこれ、誘ってんのかな。なんて思ったが彼女が額をぐりぐりと擦り付けてきて、何か違う意図があるんだと汲み取る…深呼吸したかと思えば顔を離して再び見上げてきた

「ふぅ…あの、れーさん…す…き、です…大好き…で、…っ無理!」

途切れ途切れになりながら、視線を逸らしたり合わせたりしながら彼女の口から紡がれるその言葉、無理なのはこっちだろ。なんだこの不意打ち

再び顔を埋めようとしてきた彼女の唇を奪えば、彼女が浴衣を掴む手の力を強める。啄むようなキスをしていき、何度も角度を変えていけば彼女の唇の隙間が開く。唇の隙間を舌で割ると彼女も舌を絡ませてきたが、いっぱいいっぱいなのが伝わるくらい舌の動きが固い。彼女の小さな呼吸が頬をくすぐるも、そのうち胸を押して口から空気を吸い込んだ。「まっ…ん…」まって、なんて言われたって待てるわけもなく、もう一度彼女に口付けをした。キスをしながら彼女の上に乗るように移動して、唇を解放すると、瞳を潤ませた彼女がこっちを見上げてくる







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