「訓練を開始する。訓練内容は何も知らされていない彼女、降谷なまえを尾行をして何かを取引している所を写真に写すこと…それ以外の写真を撮った場合は罰則だ。赤井たち以外のFBIも来日した、FBIに負けるなよ」

「「はい!!」」

もちろんこのあいだの会議で彼女には話してあるし尾行のまき方や取引の仕方などを赤井と二人で叩き込んだ。フェイクの取引の仕方などもだ
赤井と俺は今回監視係として部下たちがつけているカメラの映像を見ている。なぜ赤井と並んでモニターを見ていなくてはならないのかと思いはするが、彼女に集中する事にした

彼女は人混みに紛れるのが早かったが、見つけさせるのも上手く、上手に上手に誘導していき、ゴールの場所についた
誰一人として取引現場を撮る事ができずに終わり、反省会と撮ったものの確認をした

撮れているものは彼女がわざとやったフェイク。カバンを落として拾ってもらったり、キョロキョロしているふりをして前の人にぶつかったり…そんなものばかりだった

「彼女の怪しい行動は?」

「キョロキョロしていました」

ドイツ系のFBIが答えた後に、俺の部下も頷く。たしかにキョロキョロしているのは怪しいかもしれないが、ただ何かを探しているだけかもしれないだろうに、とりあえず彼女は素人だと思って甘くみた結果がこれだ

「固定概念を捨てろ。彼女は一般人であって、尾行をまくことは出来ない、取引もすぐに気づく事ができるであろう。そういったお前たちの考えが今後仇となって大きな事件を引き起こすきっかけになる」

「それで?取引をしたのはどこなの?」

「開始直後、何もせずに歩いている時に終わっている」

FBIの、彼女からジョディと呼ばれている女性が問いかけて来ると赤井が答えた
彼女は何も言わずにずっと傍らでパソコンを打ち続けているが、ふたつあるパソコンのひとつは部下が見ていた映像を映し出して、それを元に彼女が傾向と対策、それから何に注意を引いているかを推測していき打ち込んでいっていた。これを一人一人やっているから話しかける事ができないが、彼女はこっちの話し合いはちゃんと聞いてはいるらしく、話が進むたびに話し合いの内容等までも書き込んでいた
優秀すぎる。だいたい彼女は一度に何個の事を考えてやっているのだろうか、打つ手は止まらない
何を書いているのか俺までもわからない程なのでもう見ない事にした。本来ならば監視がつくくらいなのだが、彼女に監視はいらないだろう。会議の間10分の休憩を取っても彼女はずっと手を止めずに、さすがに仕事中を邪魔するわけにはいかないので話しかけずにコーヒーをいれて、テーブルに置くとやっと動きを止めた

「ありがとうございます」

「いえ、少し休んでくださいね」

「はい」

そうはいってもコーヒーを飲みながら画面を見る事はやめずに再び動き出した

「相変わらず凄いな」

「赤井に褒められてもなまえは嬉しくないと思います」

「それは彼女が決める事だ」

会議が開始されてしばらくして、彼女のほうの仕事は終わったらしくすっかり冷めているであろうコーヒーを飲み干した。あとはこっちの会議に集中するだけだったみたいだが、彼女が落ち着かない態度をし始める
そろそろ部下たちもFBIのやつらも数時間に渡った仕事に少しの休憩は集中力が途切れるだろうと思って今日は終わりにした。彼女は保存してシャットダウンすると、すぐに「お疲れ様です!」といって逃げるように帰っていった

「彼女、何か用事ですかね?降谷さん…」

「………いや…」

彼女が落ち着かない態度を取ったのはコーヒーを飲んで伸びをしてから…その後彼女は確かボタンを触った…もしかしてボタンじゃない?
出入口の警備に連絡をして彼女を止めててもらえば出入口のほうへ向かった。なぜか部下もついてくる

「ついて来なくていい!」

「いえ、降谷さんといるとおもしろ…上司の行くところに俺たちありですよ!」

今面白いって言っただろ。そうこうしているうちに彼女のいるところへついた

「急いでるんです!」

「だから、公安の方に出さないように言われてるんですよ」

「もー!風見さんですか!?」

「なんで俺なんですか」

「出た!!だって私に嫌がらせするのは風見さんしかいないですもん!」

「残念ながら俺ではなくてあなたの旦那様ですよ」

彼女の視線が俺のほうへと向けられる。旦那様ね、良い響き
「急いでるんです」と彼女が呟いたので彼女に歩み寄り彼女の首を撫でるように、首にかかる髪を退けた

「これですね?」

そこには彼女がいつもつけていて、今朝もつけていたはずのネックレスが無い。それを指摘すれば彼女の眉間に皺ができた
口を開いたと思えば出入り口から綴着が入ってきた。話が聞こえていたらしく、ここで溜まっている俺の部下と俺と彼女を見やってからため息を吐いた

「ネックレスひとつで…大げさな」

その瞬間、綴着の頬になまえのビンタが良い音を立てて入る。

「綴着さんなんて一生彼女できないわ!」

「なっ!?」

「風見、必要な時は呼ぶから部下たちを連れて戻れ」

「はい」

「なまえ、落ち着いて」

「なんでもいいから探しにいかせてくださいよ!」

俺の方を見て睨む彼女。一緒に探すと言おうとしたら、綴着が彼女の前に握った状態の手の甲を出てきた。それに気づいて彼女がそっちをみやり、怪訝そうにしていた

「なに…?」

「これ、さっきそこで拾った。お前がこのあいだつけてるのと似てたから拾ったんだけど、合ってたみたいだな」

「見せてもらっても?」

彼女のかわりに俺が手を差し出すと、彼が俺の掌の上にネックレスを置いた。たしかに自分が渡したネックレスなのを確認してから、しっかりとハンカチで拭いて彼女の首につけた

「意地悪言ってごめん」

「今のは意地悪じゃない、デリカシーが無いって言うの。拾ってくれてありがとうってお礼は言うね」

「とりあえず、早く諦めてください」

「余裕無いんですか?」

「ええ。殊更彼女に関しては」

否定はしないが負ける気もしない。ただ邪魔なものは排除しておきたいし、何かしら彼女に関わりを持とうとするところが気に入らない
そこまで気にする必要は無いとは思うが、余裕がないのは本当の事だ。彼女が小さくため息を吐くと、胸にあるネックレスの存在を確かめるように触れていた

「みょうじ、降谷さんと会う前だったら俺の事少しは好きになってくれてた?」

もう告白したも同然だったが、知っていたのかなんなのか、彼女は動揺する事もなく彼を真っ直ぐに見ていた

「前も後も、私は何度だって降谷さんに恋をするよ」

「はあ…叶わないな」

綴着が帰っていくと、俺は彼女をほんの数秒抱きしめてから離した。いつもの場所ならまだしも、こんなところでこんな事をやっていたらさすがに注意される。彼女が可笑しそうに笑うと今度こそ帰ると帰っていった
俺はまだ仕事があるので帰れない、彼女の背中を見つめていたら彼女が振り返って手を振ってきた
ご褒美ありがとうございます。私は何度だって降谷さんに恋をするよ、ありがとうございます。頭の中でリピートしています
ニヤニヤしているのが自分でもわかるが踵を返した


彼女のいるおかげで合同捜査本部(練習)の報告書は出す必要も無く終わった。つまり誰一人として仕事が増える事もないまま既存の仕事を終わらせるだけだった
俺たちにお正月なんて無い、あるのは少しのご褒美と日本の平和
とりあえず溜まりに溜まった書類となまえ欠乏症がどうにかなる日はまだ先








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