back then



自分はいつから彼女の事をこんなに好きだと思い始めただろうか。
最初に会った時の彼女は不審だった、不審すぎるし逃げるし、それなのに目の前で人が死んでしまった時の彼女の反応は最近見ていなかった、一般人の反応そのもの
だから自分からしたら彼女の事なんて、ただ少し怪しそうに見える一般人、それだけだった。勿論怪しいので風見に調べさせたりした事もあるし、逐一行動をチェックしては報告させていた事もあった

バーボンを買っていた彼女にも、そこまで気にはしていない。ジムビームなんて珍しいお酒じゃないし、コンビニでだって簡単に買えるものだから、ただその後にベルモットといたのを見たはずの彼女の反応は、まるでバーボンである事を知っているかの反応で
逢引していたというのなら、彼女くらいの年齢なら、誰ですか?とか彼女ですか?なんて聞いてきてもいいくらいなのに、彼女は何事も無かったように振舞う
一瞬でも彼女は怯えたような表情を見せたのに、次の瞬間彼女は自分にお礼を言ってくる。それだけならいざ知らず、ちゃんとおやすみと挨拶を言ってくる始末だ
薄く笑った彼女の顔はしばらく頭から離れなかった。

それからも、彼女は蘭さんがお気に入りのようで、会う機会が増えていくものの、彼女はいつだっていつも通りでいて。むしろ突っ込みまでしてくる
彼女自身は怪しいのだが、怪しい事と言えば自分の正体を知ってそうな事くらいで、他の言動はまったくもって怪しくない。時折理解が出来ない発言をするが、それもただのアニメや漫画好きな彼女にとっての何かの用語なんだろうから、考える事も無い

彼女を心配している自分の気持ちは、本心なのかさえ自分でもわからない
それなのに彼女は自分よりもこっちの心配をしてきたり、とりあえず彼女の事が気になってしまう。ちゃんとご飯を食べたのか、ちゃんと眠っているのか、彼女の事を考える時間が多くなった

「安室さん、ゆっくりやすんでください。たくさん…ありがとうございました。安室さんにため息吐かれて安室さんの幸せを私が吸い尽くしちゃうので夜ご飯はパンでも食べます!おやすみなさい」

笑っていう彼女に、心が温かくなり、自分でも衝動的に動いていた。
何の下心…何かを調べようとかトラップとか、そういうのを無しに彼女の手を引いて、彼女に口付けをしていた自分に驚いた
彼女の唇は温かくて、柔らかい。

その時にはもう薄っすら彼女の事が自分の中で、少しずつ大きな存在になっていったのかもしれないが、その感情は自分のする事にとっては、邪魔なものでしか無かった
彼女のする事を気にせずに、むしろ彼女を利用する事だけを考えて
今までは、誰かに名前を呼ばれようと、何をされようと心が凍り付いているようで、何も感じたりはしなかった。それなのに彼女と出会ってからは彼女以外の女性に、色めいた声で「安室さん」なんて言われた時には寒気がした
とは言っても、彼女は自分を色めいた声で呼んできたりはしないが。
とりあえず、彼女以外の人と笑って話す自分に疲れてきてはいた、取り繕わなくていい彼女の傍にいすぎたせいだろうか
誰かの隣が居心地が悪い。助手席に座られるのも不快で、近寄らないと匂いのしない彼女の香りが酷く恋しく感じる咽返るような香水の臭いだってなんだって、今まで何度も嗅いでいて、鼻がもうなれてしまう頃なのに一向になれず、華原さんが降りたあとはいつも窓を開けてその臭いを外に出していた

華原さんを車に乗せて走った時にも、彼女を気にしてバックミラーを見てしまった
そこには蹲る彼女が見えて、一瞬ブレーキを思い切り踏んでしまう。すぐに彼女のところに行きたかったが、中から出てきた人が見えたし、隣の彼女に訝しがられる。自分は目を瞑る事にして車を発進させた
心が乱される、彼女が邪魔だ


それなのに、彼女は自分の頭から全く消えてはくれなかった。
隠し事をされていれば気になるし、赤井の車から出てきたら醜い嫉妬心にかられる
彼女が助手席に、自分の隣にいないのが嫌で軽口を叩いた
彼女はいつものように自分と話してくれるのだろうか、彼女はいつものように返してくれるのだろうか…
まるで初めて恋を知った少年のようだと、自虐的に笑った
そんな思いは杞憂だったようで、彼女はいつも通りに返事を返してくれて、いつも通りの態度をしていた。

彼女を邪魔だと思っているはずなのに
彼女の行動も返事も、その表情の意味も、全てが気になる
彼女の隣が心地よくて、自分にだけ見せる表情が愛しく感じた。
何度も何度も自分に制御をかける、それなのに、電話をしている最中に彼女が帰ったと思った時は、自分でも驚くくらい慌てて扉を開けていた


何が邪魔だ―

こんなにも心が乱されているのに、どうにも出来ないじゃないか
しかも彼女は自分が困ったり、疲れたり、そんな時にいつも現れて
いつも通りに対応をしては、自分の心を癒して帰っていく
華原さんに薬を盛られた時だって、なぜここにこの人がいるのだろうと考える頭は無かった、無かったはずなのに、奥底で疼いた自分の感情に自分では気づかないふりをした

媚薬を入れられて、きっといつもなら適当な女を捕まえていたのに
目の前にいる彼女に手を出したくなかった、薬のせいだとかこつけて。
そんな簡単に彼女に手を出す気は無かったし、拒まれて傷つけられたと泣かれて、自分から離れていく
そんなふうにされたくなくて、必死で自分の感情も体を疼かせる媚薬も、誤魔化していたのにそのストッパーを彼女が外した

後で何か言われても、なまえのせいにするつもり。
なまえがキスをしたから我慢できなくなったんだ、薬を盛られている人にそういう事するからそんな目に合うんだろう
そう言ったらきっと彼女は謝って、それで普通に接してくれる
そうやってずるい考えばっかりが頭の中でぐるぐるしているのに、痛いと爪をたててきた彼女は結局こっちの事ばかりを考えていた
もう、苦しくないかと、笑っていう彼女が欲しくなった
彼女は本気で拒まない。彼女の優しさに甘えている気がするが、今はそれで構わない

もう、多分そこからなんだろう。
使命だとか、任務だとか、それを忘れたわけじゃない
自分の心根は変わらないけど、彼女が撃たれた時に後悔した

彼女は自分を好きなのか、嫌いなのか、全然わからないが
ただ彼女が自分の顔を好きでそばにいてくれると言っても構わない
彼女というのが心地よくて、彼女の匂いが好きで、彼女と話すと初めて知った幸せを感じる
そんなものを感じていい自分じゃないはずなのに、心にすっと落ちてくる

彼女が自分に好意を抱いているのでは無いかと思ったのは加賀見…加賀くんの一件
たまに好かれていると感じるのに、遠くも感じる
それが余計に自分を困らせて、心を乱してくるのに、不思議と嫌な感じはしない

「雪降ってテンションあがりますか?」

「あがるよ!降るだもん。で、手のひらに乗るとね、透ける…安室さんがいっぱい!」

ジリジリと弾が自分の心臓に突き刺さっていっていたのに、この瞬間貫通した気がする

「好きだなんて思いたくなかったです…なのに必要以上に絡んでくるし、こうやって襲ってくるしキスしてくるし…私はなんですか、弄ばれてるんですか?」

「やです…!バーボンも降谷さんも全部ください」


最初から、彼女を好きな気持ちなんて止めるのをやめておけばよかったんだ
こんなにも何度も何度も彼女に心臓を抉られる勢いで、狙撃されて
自分ばかり好きなのかと思うのに、彼女は甘やかしたりしてきて

とりあえず
もう、あぁ

愛し過ぎて辛い
今日から自分の復讐劇及び彼女への愛がつまりすぎてるものが始まります







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