家に帰ったら、彼女の匂いがした。本当にほんの少しだけ…だから来ているのかと思って期待を込めて中に入ったけど、誰もいなかった。それはそうだ…もう夜中もすぎているし、いたとしても電気も何もついていないし、鍵もちゃんとかけてあった…自分がいないのに彼女が泊まっている、なんて事は確実に無い。それはわかるが、それでもいたのかもしれないという思いが拭いきれない

どこまで彼女に溺れていけばいいんだ…ソファーに座って、ふわふわと漂う彼女の香り
本当に、彼女は来ていないのだろうか。
いつも彼女がいた所を撫でて、そこに頭を乗せて寝転がった。あと何ヶ月かかるんだ…早く、彼女を抱きしめたい、そばにいてくれって言いたい…あぁぁー…好きだー…

「…降谷さん、降谷さん」

「……なまえ、来てたんですか?すみません、寝てしまって…」

「お布団で寝ないと風邪ひいちゃいますよ」

「なまえと一緒なら寝ます」

「もう、仕方ないですねぇ…」

あ、夢か。仕方ないですねぇ…とか多分言わない気がする、自分の願望が夢に出すぎたらしい、とりあえず夢でもなんでも彼女に言われたので、ベッドに入って寝る事にした。
すぐに眠りに入って、また彼女が出てこないかと期待したけど、出てきたのは風見だった、残念な夢…ただ頭は凄くすっきりしていて、そのまま仕事をした
風見に彼女がきていたかも、なんて話してもまったく信じてもらえない。まあでも、確信があるわけじゃないから仕方ないか…



デスクでの仕事を終わらせて今ついている部下から詳細を聞き、交代した。
尾行する事からその人を見張る事までやる、酷い時だと一日中見張りっぱなしで休んでる暇も無ければずっと緊張状態の時がある。そういったときには職業柄、なまえの事は思い浮かばない、こんな時になまえの事を思い出していたら集中が別のところに行く
まあよく出来た思考回路だと自分を褒めたい

その状態がしばらく続き、一度会議になって自分も家で休息を取ってからそれに参加する事にした、睡眠とってご飯食べて風呂入って…デスクの仕事は後回しでいいや、俺以外に出来るやつなら風見に回そう
家の中に入ると、彼女に匂いはしなかった。
シャワーを入って、キッチンで簡単に作ったチャーハンを立ちながら食べた。それが終わったらもう眠くて仕方ないのでベッドへ向かう
寝転がった時に気づいた、彼女に匂いがベッドからする。以前来た時はしなかったその匂い

「なまえ…」

彼女の名前を呟いても返事は無し、そりゃ彼女がいるわけじゃないからそうだろう。
でも、彼女は自分を想ってここへ来てくれたんだというのはわかった。もう、なんかそれだけでちょっと離れてても良かったと思える
ただ期間が長すぎる。もう3ヶ月も過ぎたのに対象はまったく尻尾を出す気配が無い
そのまま枕に顔を埋めて寝た

朝起きて、昨日は気づかなかった
テーブルの上に置いてある小さなメモ
あいたい
とだけかかれたそのメモには涙のあと…俺のほうが泣きそうになった

それから2ヶ月すぎた頃、ようやく尻尾を出したと思い、部下と尾行をしていたら控えていたはずの部下がいなくなり、気配がしたので振り向き、こっちに向かって銃を突きつけていたやつにすぐに応戦してそいつは倒した。その瞬間に後頭部を多分鉄パイプで殴られた
いくら日本で色々やっているからと言ってFBIの管轄だろ、むしろCIAも出ていいほどの案件だ…もう一回言うが仕事しろよFBI

「っ…」

まあよくある話し、気がついたら病院で、俺の傍らにはアイツがいた

「なまえがよかったです」

「文句を言うな。一応した検査の結果は問題無し、あとはなまえの事を覚えているなら大丈夫だな」

「頭割られてもなまえの事だけは忘れません。もし忘れても体が覚えてますんで。ところでなぜあなたがここに?」

「あぁ、実は国には帰ってない。君が追いかけていた組織だが、実はもう1つの組織と繋がっていてな、FBIと君たちのところで別々にその組織を追っていたらしい。やっともう一つの組織を見つけた時…それが、君が殴られた時だな。一番重要な役を買って出てくれたようで感謝しよう」

「ちっ…なるほど、それで色々とばらばらだったのか…。合点がいきましたが、俺はお前のために囮役みたいになった覚えは無い、気分が悪いです」

自分たち公安が追っていた組織を仮にAとし、FBIが追っていた組織を仮にBとして
俺たちが追っていた組織Aは中々尻尾を出さずに、ただのまるで一般人として滞在していた
不法入国の記録も無ければ日本人とも適度な付き合いをし、洗えば色々と出てくるのに証拠が無い。日本人も殺害したりしているのに、やっぱり証拠が無い
それでしばらくかかっていたのだが、もう一つの組織Bと繋がっていたなら話しは簡単だった、その存在に気づかれないというのは大したものだが、その二つの組織が橋渡しをしていたのだったら尻尾を出さないのに合点が行く
俺たちが追っているAを注視されているときはBが、その逆ならAが…
そうやって上手い事隠れていたんだろう

「たまたまだ、君たちが先に見つけてくれたおかげで捕まえる事が出来た。俺はたまたま上から見ていただけだが…変な薬打たれなくてよかったじゃないか」

変な薬でもなんでも、どうでもいい。とりあえず赤井に助けられた事実が腹立たしい
一緒にいた部下も早々にやられていたという、見て無いで助けろよ…いや、助けられたら助けられたで腹立つんだって
それから赤井に聞いた話ではちゃんとそれぞれ追いかけていた組織の中の日本人は公安に、海外から入ってきた奴らはFBIが担当したらしい。そんな話ししっかり聞いていたが右から左、まるで聞いてないようにしていた

「それと、どんな無茶をしていたか知らんが、疲れているから休養を。との事だ」

「早く仕事終わらせたいんで。あと報告書と…うっかり病院にかかったのでそれも提出しなきゃいけなくなりました…はぁ…」

ため息を吐く赤井が、自分のスマホを俺が寝ているベッドの上に置いた

そこにはカフェで頬杖をついて、ストローをもぐもぐと噛んでいるなまえがいた。
ボケーッとしながら外を眺めている彼女。一緒にいるのは蘭さんと園子さんらしい

「なまえさん、会話が途切れるとすぐにこうなるのよね」

「大丈夫かな…安室さんと会ってないんだもんね」

「ったく、おたくの旦那と一緒じゃないのよ!ちょっとなまえさん!そんなにストロー噛んじゃってどうしたの!?」

「んー?ストローって噛みたくなるんだよ」

「わかった、安室さんとちゅーでもしたいんでしょ!?」

「うんー…えっ!?ち、違うから!!」

そこで動画を撮られているのに気づいたらしい彼女が、慌てて手でカメラを隠してこの動画は終わり

「っ…なんで赤井がこんな動画…くれください!」

「新一くん経由で送られてきてな…。それと、全部片付けてから会いに行くといい、たとえ今すぐ会いに行ったとしても、君はすぐに仕事でいなくなるだろう?」

「……そんなこと、言われなくてもわかってます」

「そうそう、君がいない間は俺が電話の相手をしていた。君の話は一切していなかったが」

「うるさい、お前もう帰れ!」

赤井がひらひらと手を振って今度こそ病室から出て行った。
不本意だが赤井からなまえの動画を貰えたので何度か再生した
本当は今すぐにでも彼女のところへ行くつもりだった、ただ赤井の言う事は御尤もな事
今回の書類も普段の仕事もたまりにたまっている、多少無理をしながらも片付けなくてはいけない。そんな中彼女の事を考えたりしていたら、彼女と会える時間が段々と先延ばしになって行くだけだ

疲れがたまっていたらしく、頭を殴られてから3日くらいそのまま熟睡していたらしい。
ずっと寝ていたから体も鈍っているし、書類も片付けなければならない
そんなわけで鍛えながら書類を片付けた。体を動かしている間はなまえの事を考えていたって全然邪魔になんてならないし、むしろなぜか全力で動けた

「降谷さん、動きすぎじゃないですか?体を酷使しすぎでは…」

「むしろ健康的だろ?夜も寝てるし」

「寝てるって…5時間じゃないですか…」

「徹夜してないし。それより早く風見の書類終わらせてこっちにもってこい」

「は、はい…」

やっと落ち着いたのはそれからだいたい2ヶ月後くらいの事
なまえにただ連絡するよりも直接会いたい、そのへんじゃなくてすぐに二人きりになれる所、彼女宛に送った新幹線の切符と住所の書いた紙

女々しいとは思うが、会いたくて会いたくてたまらない







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