※会話分多いです
私です。まだホテルに泊まってます…というかさっき来たばっかりで、プロポーズされて受けたのはいいんですが、どこへ来るにもひっついて来ます。
最初は離してくれて、私がホテルの中とかテラスみたいな所とかを見て回ったりするのを見ていただけなんだけど、お風呂場とか見に行ったあたりで視界からいなくなったとか言って後ろに抱きついたまま離れてくれない
一言で表すと、可愛い…可愛い、安室さんが可愛いよぉおお!!!あ、違う、降谷さん!!
「降谷さん、ここにお泊まりするんですか?」
「もちろん。あとで外散歩しようか」
「私お着替えとか何も用意してないんですけど」
「でしょうね。なまえの事だから何も調べたりして来ないと思ってたし想定の範囲内」
「だって建物の名前とか何も書いてないですし…」
「まあ…そこはわざとだけど」
ソファーのところに戻ってきて私が怪訝そうな目で彼を見ていたら、彼がふっと小さく笑った。一度立ち上がって彼がすぐに戻ってくるとその手には大きな袋を持っていて、それを彼が私の前に置いた
「蘭さんと園子さんに頼んで買ってきてもらったんで、どうぞ」
「蘭ちゃんと園子ちゃんが!?」
私は目が輝くのが抑えられなかった。嬉しくて嬉しくて、顔が綻んでしまう。園子ちゃんは派手な服が多いし露出高いけどきっと蘭ちゃんがちゃんと制御してくれていたはずだ。中身を確認するとカーディガンとクロップドパンツと靴と、とりあえず普通な感じで心底安心した。
「二人にお金返してお礼しなきゃ…パジャマも可愛い…ショートはどうかと思うけど…でもうれしっ!?」
「良かったですね。お金もお礼ももう渡してますよ。どうしました?」
袋の中から服だけを取り出して彼がいる側じゃない、もうひとつのソファーの上に出していって見て、シンプルな無地の紺色の、丈が太ももくらいまであるパジャマなのはいいが、下のズボンが短パンなのはいかがなものかと思う。それも出して残りの袋を見た後に声が止まってしまえば、彼がこっちを見ているのが背中越しに伝わる。わたしはたたんで服をしまっていった
「なんでもないです。とりあえず二人にありがとうございますって言っておきますね…降谷さんにもお金お返しします」
「降谷さん降谷さん…なまえも降谷さんになるんだけど?降谷なまえさん?表では安室なまえ」
綺麗にたたんでソファーの足元に置いておけば、改めて彼から少し離れたソファーの位置に座ると彼が顔をのぞき込むように軽く前かがみになってこっちを見てきた
「じゃあ安室さん…?」
「なんでシてる時以外名前で呼ばないかな…」
「今までずっと安室さん安室さんって言っているのに、急に名前で呼べって言われても無理がありますよ…」
「ちゃんと名前で呼ぶように意識して」
彼にそう言われたので、とりあえず意識する事にして頷いた。ソファーから立ち上がってテラスのほうに行けばそこを流れている川を見た、鴨がうろうろしていて見ていて微笑ましい。テラスにあるソファーに座りながらそれを眺めていると、テラスと部屋を仕切っている窓が開いている柱のところに彼がよりかかりながら私の名前を呼んできた
「はーい?」
「なまえが落ち着かないみたいだから、散歩行きますか?」
「行きます!」
部屋を出て散歩をしている間も、彼はずっと手を握っていた。正直言って手を握られるのが照れくさい、彼の体温とかが伝わってくるし、何より人前で彼が彼氏なんだと、堂々とアピールしているみたいですっごく恥ずかしくなってくる。それなのに目が合う彼が目を細めて嬉しそうに笑うから、それもまた気恥ずかしくて目を逸らしてしまう
ちょっと肌寒いと思っていたら彼が自身の手を前に引いたので私の体が彼の体と近くなる。「寒いです」と言った彼は本当に寒かったのかどうかわからないが、とりあえず今だけは彼の腕に頬を摺り寄せておいた。大好きな腕と大好きな匂い、それと綺麗な緑に囲まれてのんびり歩いた。この幸せが怖いなぁって感じる、幸せが怖いってよく言うけど、今自分がまさにそんな感じで、その言っていた人の気持ちが凄くよくわかる…あれ、マリッジブルー…?
足をすっと止めてしまえば、彼がこっちを振り向いて「どうした?」と問いかけてくる
「あの、これ…夢じゃ、ないよね」
「……夢…だとこっちが困りますね。やっとなまえに会えたと思ったら夢落ちとか…勘弁してほしい」
「だ、だよね…」
「ん?」
私が戸惑っていると、彼が優しく問い返してくる、どうした?ってもう一度言われているように、優しく…彼の手を放して彼から少しだけ離れた
「あの、先に部屋に戻るね…」
彼の返事を待つ前に、部屋に先に戻った。物凄く困っているであろう彼の顔を想像しながら部屋まで走る。左手の薬指には指輪が光っていて
幸せになるのが怖いとかじゃなくて…ちょっと、その幸せに浸っていたら、彼が急にいなくなったりとか…とりあえず怖くて怖くてたまらない。違う、ちゃんと生きるって彼は言ってくれた、でもいつか、彼が私に飽きたら?
どうしよう、なんでこんなに彼を疑って…信じたいのに、自分が傷つくのが怖くて信じきれないってどうしたらいいの。靴を脱いで部屋に入ってベッドの前で泣いていたら、蘭ちゃんから電話が来た。涙を拭って電話に出たのに、もしもしが言えなかった
"…あれ?もしもし?なまえさん?"
「うんっ」
"蘭です…あの、大丈夫ですか?"
「だいじょぶ…」
"あの、先日安室さんに頼まれてお洋服を買ったんですが…あの、それで…何か言われましたか?えっと、喧嘩、したとか…。"
"蘭、かわって。……もしもし?なまえさん?工藤新一です"
「んー」
しゃべったら余計に泣いてしまいそうで、変な返事しか出来なかったけど、なんとなく察したらしい新一くんが蘭ちゃんから離れたと言ってくれた
"安室さんと一緒ですか?"
「うん、あ、今は違う」
"言われたんですよね?"
「うん」
"それでなんで泣いてるんですか?"
「怖いー…だって、れーさん…危ない事ばっかりするし、無茶ばっかりするし、私これからそれを家で不安になりながら待つんだよ!?でも仕事してる降谷さん好きだもん…でも自分が傷つくのが嫌で、そばにいたくないー!」
もう号泣、大号泣。降谷さんが帰ってこなかった時の事を考えたら泣けてきちゃって、その時の自分の事とか、自分の気持ちとか考えたら本当に辛くなってしまった
ただの想像なのにね。新一くんが安室さんとあえて言っているのは、きっと蘭ちゃんに聞かれた時のためだと思うけど、私はずっと降谷さんとかれーさんって言った
"安室さんが想像してないと思いますか?"
「え?」
"自分がいなくなった後のなまえさんの事を、想像しないで結婚を申し込んだと思いますか?確かに、あの当時の彼は死ぬ覚悟をして生きていたかもしれません、でも今の彼なら生きる覚悟を決めたんだと思いませんか?正直あの時彼が求婚したのには驚きましたよ。例えば彼がもし、あなたのそばからいなくなったとしても、失うのはあなただけですか?彼もあなたを失うんですよ。それでも彼はなまえさんと一緒にいる事を決めたんです、それとも安室さんにさようならを告げて彼を傷つける事を選びますか?なまえさんが傷ついた時には彼も傷つきますし、なまえさんが楽しいと、安室さんも楽しいと思いますよ…"
新一くんの言葉を静かに聞いていた、相変わらず涙は止まらないままだったけど、最後のほうの言葉で思い切り大号泣してしまって、嗚咽がもれた。
次から次へと溢れる涙を拭って、鼻をすすってティッシュで鼻を拭って、とりあえず私の顔はだいぶぐちゃぐちゃで、化粧もきっと取れてるだろう
"なまえさんが彼を好きなら、彼の支えになってあげてください。なまえさんが想像するよりも彼はあなたの事が好きですよ。なまえさんは安室さんが好きじゃないんですか?"
「好きだよー…」
「そういうのは本人の前で言ってください。新一くんすみません、お世話になりました」
後ろから急に引っ張られて抱きしめられ。彼の腕にすっぽりと納まった。
彼の抱きしめる力がいつもよりも大分強い
「ちょっと、本当…やめてもらっていいですかさっきみたいなの…再起不能になります。考えすぎてしばらくフリーズしてましたって…」
「ごめんなさいぃっ…いつからいたんですかっ…」
「怖いー、だってれーさん危ない事ばっかりするしーあたりですね」
「大分前じゃないです、かぁっ!!」
「なまえ、思う事があるなら、誰かじゃなくて俺に言え」
今言いたい事と言えば、顔がぐちゃぐちゃだから見てほしくないって事くらいで、出来る事ならあっちに行ってほしいくらいだけど、それを言っても放してはくれなさそうで。
誰かから言葉をもらえないと、私は前に進めないのはどうかと思う。正直今だって彼がここにいるのが夢だと思ってるし、なんなら頬だって抓ったっていい、ちゃんと彼は暖かくて抱きしめられてる感触だって強さだって感じるのに
しばらくそのままでいられて、私が身動ぎをすると、彼の抱きしめる強さが少し弱まった
「ごめんなさい、あの…戻ってくるので一度…化粧を落としたりとか顔をどうにか作ってきていいですか…」
「……放したくないんですけど…」
「絶対、戻ってきます」
彼が腕を放してくれたので、急いで洗面所に行って顔をどうにかしてきた。
目がぷくぷくしちゃっていて化粧でどうこうできるような顔じゃないので、もうしばらくはノーメイクにしようと思って出て行ったら、ベッドに座った彼がこっちを見てきたので目を隠した
「あの、ごめんなさい…本当に…マリッジブルーみたいな…」
「うん」
彼が両手を広げてきたので、本当なら後ろ向きか横向きに彼に座ったところだけど、今日だけは自ら彼の上に跨いで座って彼に抱きついた。