私としてはたいへん笑い事じゃないのに、この人はどうしてそんなにも呑気に笑えるのだろうか。それでもこれが夢じゃないんだと、目の前の彼が教えてくれているようで、安心した。頭を殴られたというのは心配だけど、検査の結果何も無かったというし、彼がこうしてここにいる事が何よりも嬉しい。彼が「聞きたい事は?」と問いかけてきた
どこで、何してたの?なんて聞けないから、もう怪我してないならそれでいいのかな、なんて思って首を振った。
「じゃあもうしていいか?」
「んんんん!それは違います!退いてください!」
彼と自分の間に隙間があるので足を折って、その足で彼のお腹あたりを押すものの楽しそうに笑うだけでビクともしない。腹立ちます!!
キスをしてくれるのはとっても嬉しいけど、それが何か誤魔化されているような気がしてどことなくいただけない。彼がそのうち私の上から退いてくれたのはいいが、そのかわり膝の間に座らせられた。このホテル…ホテル?はいったいどうなっているのか、私たちの前には川が流れていて、また反対側にも同じように建物がある。それはそれとして彼が私の指に指を絡ませてずーっと触っている
「安室さん?」
「返事しないからな」
「れ…さん?」
「ん?」
何このやり取り、何このやり取りぃ!!!!彼が可愛すぎて死ねる!!
あれ、私、やばいかも、久しぶりに会ったから彼に対する免疫力がまた下がってて、意識したらすっごくドキドキし始めた。彼は抱きしめながら私の指に触れてるから、絶対心臓の音が伝わってしまう気がして、それを誤魔化すように足を折りたたんで彼の足の間で膝を抱えるようにした。
「本物…ですよね…?」
「…当たり前。なんなら脱ぎますよ。確かめます?」
「何を!?ねぇ何を!?何を確かめさせようとしてるんですか!?」
私の突っ込みに彼が後ろで楽しそうに笑う、その息が耳にかかって物凄く恥ずかしい。
それに彼がずーっと私を抱きしめてて完全に密着しているのがまたなんとも
「あの、そろそろ離さないんですか?」
「なぜ?」
「なぜ、って…ずっとこのままだからですよ…」
「久しぶりになまえと会えたのに放すつもりは無い。なまえだって会いたいって言ってたし…なまえが、一ヶ月会えなくてもしれっとしてるなまえが…」
「あぁああ、もう!それはいいじゃないですか!」
しっかりと私が書いたものを見ていたらしく、かなり恥ずかしくなる。しかもそんなしみじみと言わなくたっていいのに…
彼はやっと私の指から手を離すと私の耳を甘く噛んできた「ひえっ」という声を漏らすと、彼が「久しぶりに聞いた」とクスクスと笑う。
今まで何してたの?大丈夫だったんですか?浮気してないですか?
聞きたい事は色々あるけど、まずは任務の事は私はもう聞けない。黒の組織の時は何しているか知っていたし、その後も公安に行けばとりあえず彼が私の仕事と関わってくるので何かと安心はしていた。だけどもう何も聞いちゃいけないだろうから聞けなくて
でもそうなると、何を話したらいいのかわからなくなる
息を吐いて、膝に乗せた手の上に額を、重さに任せて下ろすと、自分の手とは思えない硬いものに当たって額が痛かった
「いいい痛い!」
「あんなに勢いよく頭下ろす人がいるか…。大丈夫ですか?」
「だって私の…手…」
左手の薬指にダイヤモンドが光っていた。大きいのが一つあって、その横にそっと小さなピンク色のダイヤモンド…これ本当にダイヤモンド?か、どうかはわからないけど、とりあえず典型的なダイヤモンドっぽいあれがついていて。ラインが描いているアームの部分にもダイヤモンドっぽいものが…いや、これに頭をぶつけたらそりゃ痛いよ
私の額に触れると、ダイヤモンドの痕っぽいへこみが出来ていた。これは酷い…
「……まって、これで頭ぶつけたらそりゃ痛いですよ、なんてことしてるんですか」
「第一声がそれですか…もうちょっとなんか無いんですか」
「いえ、びっくりしました…」
額から手を下ろして、彼の左手を掴んで手を見てみるが、彼の左手には何もついていない。それならペアリングというわけでは無さそうだ
「首輪…?」
そう呟くと、彼が可笑しそうにクツクツと喉を鳴らして笑い始めた。首だけで彼のほうを振り向くと、片手で顔を覆って物凄く笑っているのが見えた。え、なんなの?ドッキリなの?私が彼のところから立ち上がってカメラの存在を確かめようとあたりを見渡す
「ちが、ククッ…」
「え、じゃあなんですか?ハニトラ!?」
「またそれ…いつまでたっても信用ないのか、俺は」
まだ笑っている彼は呆れたようにため息を吐き、足を組んで肘掛に片手を乗せて頬杖をついた。その格好かっこいいなぁ、なんて思っていたいんだけど、手に光るこれが気になる
これの値段も、気になる…
戸惑ってそのまま立ったままでいると、彼が「んー」と困ったように声をあげたかと思えば彼が足を組むのとやめて、私の両手をそれぞれ軽く握ってきた
「わかってなさそうだから…なまえ。俺と結婚してください」
「ひっ…」
あ、泣いたわけじゃないよ。怖くて声が出たんだよ
だって信じられなくて、でも私が悲鳴みたいな声をあげたから、目の前の彼は私の顔を見上げて眉を下げていた。明らかに困らせているような気がしたけど、いまいち信用が…出来なくて…でも、段々と彼が本気なのかなって思えてきて、視界が滲んでいった
「降谷さん…結婚願望なんてあったんですか…」
「なまえとなら。というか、結婚っていうもので縛り付けたくなりまして」
「そんなの、無くても…私ちゃんと降谷さんのそばにいるのに…」
「彼女です、っていうのと妻ですっていうのとでは全然違うでしょう」
「でも、私こわ…怖い、です…」
「何がですか?」
「だって、降谷さん…国のためなら命投げるじゃないですか…でも、たとえば私が降谷さんが命投げるなら投げるって言っても、絶対、幽霊になってだって私を止めに来ますもん…私のために生きててくれないですもん…組織がいなくなったから、一番危険なものは無くなったかもしれないですけど…そんな、だって…」
「大丈夫。俺がなまえといたいから、生きますよ」
「私のためって、言わないん…ですか?」
「俺がなまえといたいんですって。自分のワガママ」
「ふえー…!あと、私よりも、降谷さんのほうが良い妻になりそうでっ…」
私が泣きながら言っているのを、彼は目を閉じてずっと聞いていた。
それなのに、最後の一言で笑い出す。私は本当にそれを心配してるのに、なんでここで笑うんだ
彼が手を引いてきたと思ったら私のお腹に額をつけてぎゅっと抱きしめてきた
「良い妻かどうかっていうのは、俺が決める事で他人やなまえが決める事じゃないですよ。俺は家に帰ったらなまえがいて、堂々となまえは俺のものって言えて、いつか子供が出来たら子供となまえの取り合いをします」
「愛が重いですよ」
「そのくらい、ずっとずっとなまえを好きでいるつもり。というか、俺をここまでさせるのはなまえしかいないからな」
私は彼の頭をぎゅぅっと抱きしめた。窒息したって知るもんか、って思ったけど、彼は全然大丈夫みたいで、同じように抱きしめてくる
彼の座るソファーの前に膝をついて、ちゃんと彼と向き合えば彼にぎゅーっと首に手を回して抱きついた。彼も同じように抱きしめてくれると、私の頬に頬をすり寄せてくる
「受けてくれるか?」
「――…はい、よろしくお願いします」
「っ…プロポーズするの二回目なんですよ」
「は!?誰にしたんですか!?」
聞いてないんですけど、なんなんですかいったい、浮気ですか
そう不機嫌になって続けようとしたのに、私の体を離さない彼が、私の背中を撫でる
「一回なまえにプロポーズしたのになまえ寝てるんですもん、もう、心がぽっきりですよね!赤井には笑われますし」
赤井さんが聞いてたんだ…それは悪い事をしたなぁ…ていうか話しからして組織との決着がついた時かな…うん、申し訳無い
彼の手が私の背中側の服の中に侵入してくる。のでそれを拒もうと思ったが背中側なのでどうにも出来ない、彼は私の胸に顔を埋めている
「あの、謝りますから落ち着いてもらってもいいですか…」
「無理です。今全力でなまえが抱きたくて仕方ない」
「いえ、私は遠慮したいです。もうちょっとこう、何かの余韻に浸りたいというか…ちょっとまだお話しがしたいというか」
「なまえの匂いが相変わらず好きで。もうさっきキスした時にもすでに押し倒したくなりましたよ」
「ちょ、ちょっと降谷さん!正気に戻ってください」
「残念ながら俺はいつもこうですよ。なまえに関しては」
「あぁああああもう!愛されすぎて辛いです!!!!」
「嬉しいですね?」
くっそ、腹立ちます!!