短編 | ナノ
 大切な日を君と

その日、私は誕生日だったんだけど元々れーさんから何の連絡も無かったし、会社の人たちから誘われた事もあって飲みに行っていた。若干のほろ酔い気分なのは別にれーさんが悪いわけじゃないんだけど、それでも会えるとか会えないとか…なんでもいいから一言欲しかっただけ。それでも自分から連絡をしないのはわりといつものことで、全然連絡をしていないとれーさんが心配するからたまに連絡をしたりして、会えるときは一緒にいて、うんと話しをしたりれーさんのそばにいたり…いつもはそれでいいの。会える時もそんなに多いってほどじゃないし、ただ…なんとなく一ヶ月近く会っていなかったからっていうのもあって、少しだけ心は弱くなっていたかもしれない

「一人で大丈夫?」

「へーきへーき」

呂律が回りにくいのは自分だって気づいていたけど、多分そんなにしゃべってておかしいほどにはなってないと思う、足取りも少しだけふらっとはするけど実際どこか壁にぶつかったりもしないし、眩暈みたいな感じはするけど気持ち悪くも無かった。そのままタクシーに乗って家に行き、お金を払って外へ出た。外の風が気持ちいい…なんて事はお世辞でもいえなくて、夏真っ只中というか、むしろ始まったばかりのような気がするけど、とりあえず蚊取り線香の匂いがそこらじゅうからした…。産まれた時が関係があるのかはわからないけど、蚊取り線香の匂いってすごく好きで…さすがに思い切り吸い込めるかって聞かれたら答えは否なんだけど、なんとなく落ち着いた感じで自分の部屋に行った

スマホを取り出して、やっぱり連絡が無いのを確認して、それから玄関の鍵を開けてなだれたように中に入った。履いていた新しく買ったばかりのヒールのパッチンをしゃがんだ状態ではずして、それからそのまま玄関で休憩を取るためにうつ伏せで動きを止めた

飲み会の前に電気はつけっぱなしだったし、クーラーの予約もしていたから明るいし、涼しい…スマホが音を立てたのでそれにだけは反応してその画面を見る。友人からのついたかどうかの確認メールで、それに「ついた、おやすみー」と軽く送ってから今度は寝転がるのをやめてその場に正座した。あれ、でもなんか…

「なまえ?」

「だっ…」

目の前にとたとたと音を立てて不思議そうな顔をしてこっちに歩み寄ってきた人物を見て、私は顔を歪めた。途中で言葉を止めたのは夢か幻かって考えたからかもしれない

「だ?」

「抱っこ…」

私はこのとき半分泣いていたかもしれない。飲み会だってなんだって、楽しいけど考えるのはれーさんの事ばかりで、それが夢でも幻でも目の前にいるんだから甘えたくもなる。その彼は一瞬驚いた顔をしたけど私の伸ばした手を受け入れるようにそのまま抱き上げてくれて、首筋に顔を寄せてきた

「どうしたんだ…?酔ってます?」

「あれ、本物?」

「ですねぇ」

そのまま移動されてしまい、彼にソファーの上でおろされた。「久しぶりですね」なんて目を細めて笑う彼が口元に緩やかな曲線を描いた。ソファーに座っている私の前に肩膝を立ててしゃがむようにした彼が私の唇に唇を寄せてそっと触れてきた
あれ、だって何も聞いてないんだけど…合鍵を渡していて、わりと急に来る事もあるけど私がどこかに行っているかもしれないときは「家にお邪魔しています」なんて一言くれるのに、今日は何も無かったはず。彼の顔が離れた時に照れてしまって、誤魔化すように笑ったら彼が頬に触れて親指で私の唇をなぞった

「お腹にまだ余裕あるか?」

「あるけど…?」

「待ってて」

そう言われて私から離れた彼が持ってきたのはお皿にのった…何か?それを私の前に置くと「タルト生地から作ったのは初めてなので、何度か失敗しました」なんて笑って言った。私の前に置かれたのは食べきれるくらいの大きさのタルトに薔薇のように並べてある桃…それの周りに生クリームだろうか…とりあえず可愛い桃のタルトが置かれた。桃の匂いがしたのはこれだったのか

「お誕生日おめでとうございます。なまえを産んでくれたお母さんにも感謝したいですですよ、なまえがいてくれて僕は幸せです」

「ありがとうございます」

忘れられていると思った。今日会えないかと思った。私の前で私の顔を見ていう彼に嘘も偽りの色も無い。顔を歪めて、泣いてしまったのを見られたく無かったから彼に手を伸ばして抱きついたら彼が抱きしめてくれた。それなのにすぐに引き剥がそうとするから必死でしがみついて、そのうち力に負けて離れてしまえば顔を背けた。化粧が落ちて、ぐちゃぐちゃかもしれない顔、きっと目だって鼻だって赤くなっている気がしたのに、彼は私の瞼や頬にキスをして、鼻と鼻をすりっとくっつけてきた

「ようやく仕事が片付いたんだ。一ヶ月も会えない間寂しくなかったか?俺が。寂しかったです」

「ふはっ…自問自答じゃないですか」

「会えないのだいたい三日くらいで限界が来るんだ」

「早いよ…。れーさんの作ったケーキ食べたい…食べさせて」

「喜んで」

もう甘えてしまおう、なんてれーさんって呼んだら彼は嬉しそうに笑った。可愛い笑顔、本当に綺麗に笑う彼が愛しくてどうしようも無いの。ちょっとずつ切って私の口の中に入れていってくれるれーさん…そして私が嚥下するとキスしてくる…また私の口の中に入れて嚥下したところを狙ってキス…

「もう!!何!!」

「食べさせるよりキスしたいが…食べて欲しいっていう気持ちもある葛藤です」

「どっちかにしてください!」

「じゃあ食べ終わったらいっぱいします」

「いっ…」

それはそれで怖い、なんとなく食べる速度を遅くしていき、彼を見ると完全に取って食われてしまいそうな表情でこっちを見てくるから戸惑うしいろんな意味で怖い…食べられる!って本能が感じてるよ…。全部食べ終わってしまえば彼が予告どおりにキスをしてきた。私の膝を割って、そこの間のソファーの上に彼の膝が入り、立っている時のように視線が上の彼に顎を掴んで上を向かせられれば唇を奪われた。嫌なわけじゃないから、自分からもキスをするようにはしたけど、舌を入れられて絡ませられて、舌を吸われて…本当に食べられそうになるし自然と声が漏れてしまう

「甘いな」

「っ…」

キスの合間に呟いたれーさんの言葉、それから彼の唇にもついたのか、唇を舐めた仕草が色っぽくていっきに体が熱を持つ。私はそのままソファーでれーさんの何度も鳴かされた

「シャワー入ってないのにっ…!」

「そのままのなまえご馳走様です」

「もうそういうところは嫌です!汗臭いって言ってるのに」

「何言ってるんです?舐めたいほどには好きですよ」

「嫌ぁーっ!」

「あ、そうだ。そういえばプレゼントです」

「ねぇ、切り替え早すぎです。私まだ文句ありますし!」

それなのに渡されたのは四角い箱に薔薇がたくさん入っているもの…可愛くて、綺麗で感歎な声をあげてから鼻を寄せた。良い匂い

「これ入浴剤ですか?」

「ええ。飾れますし、しばらく飾ったら一緒にそれ使ってお風呂入ろうな」

「oh…邪がたくさん詰まった…」

「アクセサリーにしようかと思ったが…ネックレスはあげてますし、あまり独占欲丸出しでもな…」

「れーさんから貰えるならなんだって嬉しいですよ!これも嬉しいですが、一緒にお風呂はどうかな!」

ちらっと見られたので笑顔で返したらちぃっと舌打ちをされた。れーさんの舌打ち可愛い…。それから小さめの紙袋を手渡しされた

「これは?」

「4日前に着替えに来たんだ。なまえは仕事でいなかったから会えなかったが、その時ここの大家さんに会ってちょっと早い誕生日だが君に渡して欲しいと」

「えっ…」

大家さん?なんて思って紙袋の中を覗き込んで、まず最初に手紙を開いた

’お誕生日おめでとうございます。フライング誕生日〜っ!
当日はきっと彼氏さんといるんだろうと思って私は邪魔しないようにしましたっ
なまえちゃんへのプレゼント、色々悩んだけどやっぱりこれがいいかなって思って…色々悩んだんだけどね。
いつも会うと元気に挨拶してくれるなまえちゃん、私が掃除してるときにため息ばっかり吐いていると「どうしたんですか?」って気づいてくれるなまえちゃん。
私はなまえちゃんに会えて幸せだよ。ちょっと大げさかもしれないけど、こんな優しい子が私の管理しているアパートに住んでくれているのが嬉しくて、私はいつでも頑張れる、大家でいる事が出来るんです。大家と住んでる人っていうおかしな関係だけど、おばあちゃんになっても、なまえちゃんがどこか違うところにいっても会えたらいいな。それを楽しみにおばちゃんは生きていくね。
最後に、お誕生日おめでとう。産まれて来てくれてありがとう!!’

大家さん…!なんて感激した後に紙袋に入っているものを取り出した。バッグにつけるタイプの猫がいる時計

「わぁー!可愛いー!猫ー!」

「なんかこっちのより喜んでません?」

それとイヤリングだった。イヤリングはボトルの形をしていてそこに書いてある文字を凝視した

「無視か」

「え…えぇ!?」

「…どうした?」

手紙を覗き込むなんて事はせずにそばで待っていたれーさん、若干うるさいところはキャンセルしたら私の声を聞いてさすがに気になったらしく手元を覗き込んできた。私が見ているのはお酒のボトルに英語でバーボンと書かれているイヤリング…それをれーさんに見せるようにするとふふっと可笑しそうに笑った

「よかったな?」

「えっ!?だっ…え、バーボンですよ!?」

「あぁ、そうだな?」

え、なんでこんな冷静なの!?なんていおうとしたら、れーさんが柔らかく笑った

「ここの大家は俺が住んでいるマンションの管理人でもあるんだ。教えなくても事情は知っている、だからこそ安心してすめるし、君を住ませておけるんですよ」

大家さんって何者?なんて考えつつもさっそくつけてみたりして…鏡が無いけどつけたられーさんの表情が緩むから似合ってるんだろう。今度は時計を持ってどのバッグにつけようか寝室のほうへ行ってバッグにつけた。満足して立ち上がって振り向くと、彼がお皿を持っていて、それはそれとして、もう片方の手で腕を掴まれ、ベッドの上に座らせられたので彼を見上げた

「誕生日まであと数時間ですし、もう少しなまえと遊びたいなと思って」

「それ語弊ありません!?なまえで、じゃないですか!?」

「そんな事ないだろ?僕も楽しいんだからなまえと、です。なまえにも良い思いさせるし…何か違います?」

「え、いや、え」

「ちゃんと食べないと落ちて染みになりますから、ちゃんと食べてくださいね?」

戸惑っていたら、なんて言った彼が私の前に膝をつくように床に直接座り、お皿に入っている小さな何かを自身の口の中に入れて私にキスをしてきた。何かが唇にあたったので薄く唇を開くとそこから入ってきたのは桃。小さく切ってあった桃が口の中に入ってきた。普通にたべさせてくれればいいのに、なんて思うけどちょっと大家さんの事でやきもちやかれたような気がするので、少しは嬉しいからそのままにしていたら段々と食べさせられている桃の大きさが大きくなってきているのは気のせいじゃなかったようで、最後には一口で食べられるかわからない桃の大きさ、でもそれはフォークで刺したやつをくれた。慌てて手を出して、垂れてくる汁を受け止めようとしたら、彼が反対側から桃を食べて、それから口を滴るのを舐めた。咀嚼しても桃の汁が口から出てこないだろうか、色々と考えて少しずつ咀嚼して嚥下しているのに、ちゃんと食べろと言わんばかりに指で桃を押されるから無理やり口に入れられてる感じ。なんて嫌がらせ!って思ったのは一瞬のこと、やっぱり滴るものを舐めているのでこれがしたかったんだろう、と理解した。全部飲み込んでもやめてくれなくて、そのまま唇を合わせられて口内に残る桃の香りまで取ろうとするように、舌を絡めてキスをしてきた。

「んんッ…!」

「美味しいですよね、桃。あなたみたいで」

「は、っ…い、意味がわかりません…」

「フルーツにも花言葉があるんですよ、桃の花言葉の天下無敵やあなたに夢中。僕はなまえに夢中ですから…何よりも、ね」

「んぅ!ちょ、さっきシたばっかり!んんーーっ!!!」

何があったかご想像にお任せしたい…。とりあえず、私は彼に愛されてるって事が嫌というほど…嫌じゃないけど、嫌というほど感じた日でした





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