短編 | ナノ
 お疲れのあなたへ

れーさんと付き合っているのに、せっかくれーさんがたくさん連絡をくれるのに、新しい仕事をしている私は仕事に慣れてないし、周りはゆっくりでいいよって優しい言葉をたくさんかけてくれるけどそれに甘えるわけにもいかなくて早く慣れたくてわりと焦っていたんだと思う。そのせいで何度も失敗ばかりして、焦らないでゆっくり仕事をしようって思ったら残業で…早くなれようと思って朝早く出勤しては、誰よりも遅く帰る。そのせいで警備員のおじさんとは仲良くなってしまって、今では時折お互い飲み物を買うくらいに…なんてどうでもいい、休み時間もご飯を慌てて食べてはわからなかったことを復習したり、とりあえず私の頭の中は仕事だらけて夢の中でも仕事をしているくらいに疲れていた。しっかりと眠れない毎日と焦っているばかりの心、癒しは何も無くて…その心も体も限界だったんだと思う

普段硬くて冷たいところでなんて眠れない、枕も布団も無いところでは眠れないのにその日は自宅についてほっとしたのと、もう気を抜いてもいい、歩かなくてもいい、誰の目も気にしなくていいって思ったら玄関でそのまま寝転がってしまった。どうせ寒いから10分くらいで目が覚めるもん、なんて思ってそのまま眠気に身を任せていると、私の体がふわっと浮いたのに気づいた

「ん…」

何?って言いたかったのに出たのは小さな声だけで、眠気に任せてそのまま眠たかったけど、一生懸命何度も何度も目を開けたり閉じたりを繰り返していた。そっと柔らかいところに体を置かれて頑張って起きようとしていたのに多分少し寝てしまった
それでも起きなくちゃって思って、もう仕方ないから頑張ってうつ伏せになってから起き上がろうとしたら、うつ伏せに体をしたその先には何もなくてずるりと落ちたところを受け止められた。落ちた事と受け止められた事にダブルで驚いて私の心臓は跳ね上がり目を開けた

「れっ…!」

「お疲れ様です」

「れーさん…!?」

「はい」

眠気は…残念ながら覚めてないけど、驚いて一瞬だけ目はしっかりと開いてしまった。靴は履いたままだったけどちゃんと脱がせてくれたみたいでソファーまで運んでくれたらしい。私が名前を呼ぶと柔らかく笑う彼に顔が引きつった

「あの、ごめんなさい、私…全然連絡できなくて…」

「そうですね。いつもなら気にしているところですが…今は仕事をし始めたばかりだからな、それに僕は知り合いも多い、あなたがふらふら歩いているところなんて目撃されてるんだ。少しは頼ってくれればいいのに…」

私の頭を優しく撫でてきたれーさんが私の額に口付けをしてくれた。温かくて安心する手、眠気がまた襲ってきたところでれーさんの手によって私の体を起き上がらせられた

「眠るなよ、着替えて、化粧落としてすっきりしてからしっかりと寝ような。温かいミルクにハチミツ入れたのを作りましょう」

「あの、いや」

「お風呂は一応予約してたんだな、それなら」

「寝かせて!!!」

「寝かせますよ」

まるで何を言っているんですか、と言わんばかりに言う彼、私のほうがそれを言いたい。もう何もしないで寝たいの。そう思ったらスーツのジャケットをするっと脱がされてしまい、そのままお風呂場へと背中を押されてしまい、あろうことか後からはいってきたれーさんが私のパジャマと下着まで持ってきてくれた始末

「はい脱いでください。バスタオル巻いたら呼んでください」

「え。なんて?」

「バスタオル巻いたら呼んでください、頭洗ってあげますから」

いつもなら絶対いや!って言いたくなる、それでもいつもなら無理やり脱がせてお風呂場に突っ込むくらいするのに今日はバスタオルを巻いてって言ってくれるし私が服を脱いでいる間外に出てくれているようで扉の外に行った。れーさんも疲れているはずなのに、私をこうやって甘やかせようとしてくれているだろうから…なんとなく申し訳なくなって彼に甘える事にした。うつらうつらしながらボタンを外してブラウスを脱いで洗濯へ、タイトスカートのフックとチャックを下ろすとスカートがストン、と音を立てて落ちて輪っかを作った。その中からスカートをまたぐようにして出て、軽くたたんでからストッキングと下着を脱いでバスタオルを体にしっかりと巻き付けた。コンコンと軽くたたくとれーさんが入ってきて頬を緩めて笑った

「ありがとうございます」

なんてお礼を言われて、その意味がわからなくて眉を寄せたら「甘えてくれて」と続けた。お礼を言われるような事か、とりあえずお風呂場へ行った、そういえば体を洗ってから呼べばよかったな、なんて思ったのに着ていた部屋着の裾と袖をまくった降谷さんが湯船に入って縁に首を仰向けで乗せるように言ってきたのでそうすると顔にタオルをかけられて髪に温かいシャワーをかけられた。水を含んだ髪が下に落ちて少しだけ頭が重く感じる。彼の優しい手つきが気持ちいいのと、眠ってしまって溺れてもきっと助けてくれるんだろうっていう安心感から、私は見事に寝落ちていた

「なまえさん」

「ん」

「なまえー」

「んっ…はい!」

タオルを取られてまぶしく感じれば彼に名前を呼ばれた事もあって目を開けた

「体も僕が洗いましょうか!?」

「いい」

意気揚々と言われても絶対いや。態勢を変えてすっかり温まった体を起こした。彼が眉を下げて笑った後に飲み物の用意をするといってそこから出て行った。気だるい体を起こして湯船から出てボディーソープを出した。今更気づいたけど彼は髪をしっかりとまとめてクリップで上に止めていてくれたらしい…本当何から何まで…そしてそのまま顔を洗う私

これボディーソープだった。

慌てて流して化粧落としをしてから洗顔を。体を洗ってからまた洗顔をしようとしてはっとした、もう終わってたんだなーって…ぼけーっとしたり眠かったりしているとすぐこれだ。とりあえず体を拭いて浴室から出ていけば彼が用意してくれたパジャマと下着を着た

頭、乾かすの面倒だな…

「なまえ」

「ん、はいっ…」

「着替え終わったら髪乾かしますから来てください」

ここまで、甘えてもいいのだろうか…いや、でも本当に眠い…そう思ったらドライヤーをもってふらふらと出て行った。彼がソファーまで手を繋いで連れていってくれて、ソファーに腰をかけた後にすぐにドライヤーの温かい風が私の髪を撫で始めた

また眠気に任せて眠ろうとしたのに、器用に片手でドライヤーをしながらも、テーブルに置かれた飲み物を渡されたのでそれに口をつけた。温かくて甘い飲み物、それを飲み干してから綺麗に乾いた髪に櫛を入れてくれた

何この至れり尽くせり…本当に申し訳なくなってやめてもらおうかと少し顔をそっちに向けたら表情は緩んでいて、本当に優しい顔をして笑っているから何も言えなくなった

「何か…嬉しいんですか?」

「ええ、もちろん」

「あの…ごめんなさい、れーさんも疲れているのに」

「いいえ?あなたに触っていれば疲れなんてなくなります」

「そうですか…」

そんなわけあるか。って言いたくなったけど黙った

「それと、ありがとう…のほうが嬉しいです」

そういわれてポン、とありがとうがいえるほど素直でもなくて、最後に全部ひっくるめて言おうと思って口を閉じた。全部終わった後に寝る準備をしに歯磨きをしにいって、自分もだけどれーさんも、当然ながら泊まるって思っているのはいつもの事で少しだけ笑ってしまいながらも完全に寝る準備を整えた。

彼と二人で布団に入って、彼の腕枕の中に入ってぎゅっと抱きしめられる。
いつもなら色々触ってくる彼も今日は私の頭をそっと優しく撫でるだけで、まるで小さい子をあやすかのように背中を優しくとんとんと叩いてくれていた。慈しむように額にそっと口づけをしてくれる彼の胸に額を寄せて、彼の香りを胸に吸い込んだ

「よしよし、誰より頑張ってますね」

「れーさん」

「ん?」

「ありがとうございます」

「…はい」

「もっと褒めて、励まして」

「ふっ…、新しい事をしてそれを器用にこなせるのは一部の人間だけだ。失敗して学ぶのは当然の事、慌てて焦って早く一人前になろうとしなくていいんです、そりゃ、会社にとっては即戦力は美味しいかもしれないが、わからない事を一生懸命やろうとしているなまえを誰も責めませんよ…。でも、もし責められても僕があなたの愚痴を聞きましょう、疲れた時はいつでも呼んでください、僕はずっとそばにいますよ」

彼の温かさと胸の鼓動が心地よくて、声を聞きながらも私は眠っていた。朝は早く起きて、彼が作ってくれていた朝食をいっぱい食べて、部屋から出る時に彼が背中をポンと叩いてくれた

「頑張ってきてください、行ってらっしゃい」





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