「…何してるんです?」
「お、追いかけてたら…ソファーの角に小指ぶつけました…」
「追いかけ…あ、あれか」
すっかりハイハイするようになったこども、最初ずりずりと匍匐前進していた頃が懐かしいと思える…そんなこどもはもう生後8ヶ月になって、昼間には歩行器に乗ってあっちこっち行ったりおもちゃで遊んだりと、一人で遊んでくれる事が多くなったぶん動きが激しくて彼女はたまにこんな感じで倒れている事がある。この間こっちが涙目になったのは、彼女が膝に乗せてじゃんぷさせて遊んでいて、彼女が終わりにしようと膝に乗せた瞬間にジャンプして、こどもの頭がなまえの顎に直撃した時
「いっ…!」
という最初こそ声に出したら、その後声が出なくなったなまえを見てこどもを抱き上げると、なまえがソファーに倒れた
「こども!ママが痛いだろ!」
言ってもわからない、わからないのはわかってるけど思わず言ってしまったそんな出来事。なまえから服を受け取ればそのへんを徘徊しては壁に手をつけて立ち上がったり、そのまま壁沿いに歩いて笑って遠ざかるこどもを捕まえた
オムツ一枚だったこどもを胡坐をかいた膝の上に乗せて服を着せ、ジャンパルーの中に入れたら一人で遊び始めたのでまだうつ伏せのままでいる彼女のほうに歩み寄った
「なまえ、大丈夫?」
「と…っても痛い」
「とりあえず起き上がって」
なまえが頷いて手をついて起き上がってソファーの上に座ったので彼女の足を見たこれは痛いだろう、小指の爪が剥がれている。救急箱を持ってきて消毒をしたのだが、彼女が涙目で俺の肩をばんばんと叩いている、痛いのは可哀想だとは思う、思うけど痛がってる彼女も可愛いと思ったのは許して欲しい。ガーゼをつけて小さく切った包帯を巻いてやれば彼女がお礼を言ってきた
「明日病院に行ってくださいね」
「大丈夫です、治る」
「ばい菌入ったら困るから、明日は俺がこどもを見ますし」
「はーい…」
「まんまんまんまんまーー」
「リズム良く呼んでますね」
「蝉みたい」
こどもが手を伸ばしてばいばいするように手をぱたぱたとさせている、抱っこしろとでも言うのだろうか、歩み寄って抱き上げたら「パーパッ!!」と勢いよく呼ばれた
「なまえ聞いた!?パパって言いましたよ!?」
「うん、聞こえましたよ」
可笑しそうに笑う彼女、初めて聞いたその言葉…ママとかアーとかいう声はよく聞いてたけどパパという声は初めて聞いたので感動を覚えた。思わずこどもを上にあげて額と額をくっつけてすりすりするときゃはは、という楽しそうな声をあげていた
そんな幸せな日常は足早く過ぎていき、たまに任務で数日間帰れない日があって久しぶりに帰るとまたこどもが大きくなって出来る事が増えていたりと、会うたびに変わっていく。組織がいた時ほどではないが、それでも事件が減っていくわけも無く自分の仕事は終わる事を知らない
寂しく無いのかと聞いても、彼女は寂しいと思うのは子供が寝た後だけだよ、なんて言う。毎日毎時間俺の事考えてて欲しいんだけど…そんな事されてたら寂しいだけか、でもそれはそれで俺が寂しい
彼女はずっと子供といて、しなくちゃいけない事が多いから考えている暇が無いんだろう。俺も俺で、仕事の事を考えるときは仕事に集中しているはずなのに、現場ではなくて本庁のほうで仕事をしていたりすると考えている事はなまえの事で、たまに会議資料になまえの名前となまえとしたい事を書いていてそれをうっかり見られて風見に注意されたりもする。消せるシャーペンですよ
もちろんこどもの事もちゃんと考えている、そんな一日二日で立てるようになったとか…そんなふうには思えないが、それでも今日は何のおもちゃで遊んだのかな、とか
何をして彼女を笑わせてるのかな…とか考えたりする
帰った時に、なまえが荷物を詰めていた
「なまえ?どこか行くのか?」
「もう…れーさんといられないです、だってれーさんこどもの1歳の誕生日にも帰ってこないじゃないですかっ…!だから、さようなら」
「待って、なまえ!こども!なまえーーっ!!!!!」
「はっ…」
「降谷さん大丈夫ですか?」
「…風見、俺帰る」
「ええ、どうぞ。というか昨日から帰れって言ってますし」
「上司に向かって帰れって言うな」
仕事をしていたら一瞬でも眠っていたらしい、かえる準備をして自宅に戻ったらダンボールに物を詰めている彼女がいた
「ちょ、まっ…なまえ、俺を捨てないで!?」
お帰りなさい、と言われる前に…さらに言うとただいまといわれる前に開口一番そんな事を言ったら眉を寄せた彼女が「え、何言ってるんですか」と言われた
こどもはと聞いたら、お昼寝したばかりだというので息を吐いた
「なまえ…」
「はい?あ、お帰りなさい。寝不足ですか?」
ぎゅぅっと抱きしめたら寝不足かと聞かれた。確かにその通り…その通りだが、今はそれどころじゃない。それでも彼女がここにいるという事に安心して、彼女の匂いを胸いっぱいに吸い込めば途端に安心して眠くなった
「れーさん、私がれーさんを捨てる事は無いと思いますけど…」
「捨てられたら拾ってくれる?」
「いや、だから捨てませんって!!!!」
「一緒に寝よう…」
最後の一つの洗濯物を畳み終わった彼女が「いいですよ」と笑ってこっちを向いてきたのでキスをしたら、「不意打ちです」と顔を赤く染めたのでとりあえずしばらく捨てられることは無さそうだ…
着替えてから彼女と布団に入り、彼女をしっかりと抱きしめてから眠った
そんな平和な日常が、毎日続くと思っていた
この可愛い子供が自分とライバルになるなんて思ってなかったです
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