「相変わらず仲良しやなぁ!」

和葉さんたちがこっちに歩み寄ってくると、なまえさんはようやくスマホをポケットの中に入れた。

「こども!そっちまで行っちゃダメです!」

「こどもっ!!」

赤井と俺が飛び出たのは同時で、坂道をボールとこどもが見事に転がっていく。俺も赤井もスライディングする勢いで滑り落ちた所で彼女が呼ぶ声が聞こえたと思ったら川に落ちるギリギリの所でこどもが止まった。
ボールを取り損ねたこどもの手に当たって柵の向こうに転がったボールを追いかけるために柵からこどもが出てしまったのだ。俺がこどもを抱き上げて、赤井がほっと息を吐くのを横目で見る
赤井が立ち上がって草を掃うと、坂道を俺の後ろからついて来る。柵から女性陣四人と新一くんや服部くんが顔を出した

なまえがこどもに手を伸ばすとぎゅぅっと抱きしめて、ありがとうとお礼を言っていた

「でも良かったわ…何ごとも無くて…こどもくん、あかんで?柵のあっち側に行ったら…」

「あ、あかん和葉!!はよいかな!」

「あ、せやった、今日帰るんやった…ほななまえさんこどもくん、安室さんまたね!!」

バタバタと慌てて二人が走って帰って行き、それを見送った後に抱きしめていたこどもをなまえが下ろした。手をぎゅっと握って睨むようにこどもを見るなまえを見て、園子さんたちが「あっちで待ってよう」と言って離れる
彼女が怒りにくいだろうと思ってやった事だろう、彼女がこどもに「柵ってね、危ないから作ってあるの!ボールが転がったら、パパか赤井さんにちゃんと言いなさい!!」と言うとこどもが涙目になって頷いていた
息を吐いて髪をかきあげた、もう本当に変な汗かいた。怒るにも一緒に遊んでいたのにこどもをこっちに寄せるように投げたりしなかった自分の責任でもある、その場にお尻をつけて座るとこどもがなまえの手から離れて俺に抱きついてきた
それを抱きとめて背中を軽くさすってやれば、彼女が息を吐いて立ち上がる

「ボールで遊ぶならもう少し囲われたところじゃないと危ないですね…じゃ、緊張しておなかすいたのでご飯食べてきます」

「僕もー」

なまえが踵を返すと、こどもが慌てて彼女の後を追いかけた。自分の足の間に頭を入れて大きく息を吐いて自身に手を見た、カタカタと震えているその手
赤井が「大丈夫だ」と一言言って俺から離れる、何が大丈夫なのか何なのか、とりあえず赤井に震えてる所を見られた、一生の不覚だと思っていたらあっちに行ったはずのなまえがこっちに走って寄ってきた、俺に飛びつくように抱きついた。それを抱きとめると彼女の名前を呼ぶ

「どうしました?」

「ううん」

すぐに離れた彼女が笑みを浮かべると、俺の震えていた手は止まっていて。彼女の頬を撫でた、すぐにこどもがあっちのほうから走ってくると、無理やり俺となまえの間に入って来る

「だから、こども!パパとママの間に入ってこないでください!」

「パパとママの間がいいのっ!パパはそっちでいいでしょー!」

いやいや、良くないですし、何で今度は間とかじゃなくて俺を端にしようとしてるんですか。二人もろとも抱きしめているとこどもの笑い声が聞こえて、なまえまでもが笑い出した

「えいえい!」と言いながら顎を押し上げてくるこどもの仕草はなまえそのもので、彼の前でやられたことは無いはずなのだが、所どころがなまえに似ていると思う
なまえが立ち上がったと思えばこどもが勢いよく足で地面を蹴ったため、そのまま抗う事なく後ろにひっくり返り、こどもを持ち上げた

「そういえばこども、ママはつわりが酷かったんですよ。ママを辛い思いさせて…どうしてくれるんですか!!」

「つわりってなーに?」

なまえがお腹を抱えて笑っている。俺も俺でなんと言ったらいいかわからずに動きを止めていた。「微笑ましいわね、まったく」と言いながら園子さんたちが再び歩み寄ってきた

「こどもくん、私も一緒に遊んでいいかな?」

みんなが来たのでこどもを下に下ろし、自分も起き上がって立ち上がると蘭さんの言葉にこどもが大きく頷いた。園子さんと蘭さんと追いかけっこをして遊び始めたこどもを見て、なまえも行こうとする

「れーさん、幸せだね」

「…ですね」

その光景を見て笑っていったのに、なまえが首を振った
数歩前に出た彼女が、後ろで手を組みながら顔だけをこっちに向けて眉を下げて笑う

「れーさんは、自分は一人だって思ってた節があるから…」

「今はなまえとこどもがいますよ」

それにもまた首を振って、今度は体ごとこっちを向けてきた

「仕事で助けられない時は、私は何も出来ないけど、いざとなったら隣にいる新一くんとか赤井さんも、風見さんだって助けてくれますよ。一人でなんでも出来るって思わないで、たまには頼ってくださいね。それでね、れーさん…いなくてもなお、れーさんの側にいる人だっているんですから…」

声を震わせた彼女が眉を寄せて息を吐き、一度言葉を止めた

「たまにれーさんが、また一人で頑張ってるんじゃないかって不安になります。帰ってこない時、こどもが私の頭を撫でて来るんです「ゼロなら大丈夫だって言って!」って。私だけに会いたくて、みんなが集まったわけじゃ無いんですから」

そう言って彼女がこどもと遊ぶために駆け寄っていった。四人が遊んでいる姿を目に焼き付ける

「さっきこどもが不自然に止まっただろう」

「赤井」

「ん?」

「黙ってください」

隣で新一くんが笑う声が聞こえた。失うものもあれば、得るものもある
失ったものが帰って来る事は無いけど、それでも自分の中でも誰かの中にも生きてる
横目で赤井を見たら、赤井が笑みを浮かべてきた。腹立つ、笑うな

ただ全部が全部、彼女がいなかったら無かったものばかり
なまえがいなかったら、組織壊滅後に新一くんや蘭さんたちと会う事は無かった
なまえがいなかったら、あの時あの場所で自分はスコッチたちのところへ逝っていたかもしれない。一人じゃない、って…独りじゃ無くさせたのはなまえだろうが

これから先、おじいさんやおばあさんになって、やっとこの世界から別れを告げられても
何度違う場所に生まれ変わっても、君という光を浴びて俺はようやく呼吸が出来る気がする





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