報道に興味があるフリをして近づいたので、面倒見の良い彼女も取材に行く時などは必ず声をかけてくれるようになっていたのだが、そろそろこの潜入も終わりそうなのでなまえから少しだけ離れる期間が必要になった。最後の取材の時に見慣れすぎてる人たちを見つけて思わず走っていってしまった
間違いじゃなければ、なんて言わない。間違いでもなんでもなく、俺の子供を抱っこしているのは間違いなく赤井
すぐに返せと言うものの、後ろから追ってきた気配と声によってすぐに赤井を睨むのをやめて柔らかい表情を作り上げた
記者のこの彼女からは好かれているとは思っていたが、彼女いますか?と自分ではなくて新一くんに聞いた事には驚いた。自分だと誤魔化しも聞くのだが新一くんだと安室の時はほとんど隠す事なく彼女を表立って出していたため、もしかしたら言うんじゃないかと思っていた
それよりも先に赤井となまえを夫婦だというこの人の問題発言には思わず笑顔が固まってしまったが、新一くんがどう答えたらいいか考えていてくれたので、間を挟むことが出来た。ただ彼女の前だろうとなんだろうと、彼女を好きじゃないとか好きな人はいないとか、彼女はなんとも思わないかもしれないが、それでも言いたくは無い
本当に命に危険に晒される場合なら違うが、今回はそういったわけでもなんでもない、ただ彼女を妻だというのは避けて自分の片思いのように伝えた
こどもを抱き上げて額をあわせると、笑みを浮かべてきた。すぐになまえにこどもを渡すと記者の彼女が今度こそ先に行ってくれたので赤井のほうを改めてみる
ただ誰が見ているかわからないので笑顔を保ったまま赤井に向かって思った事を吐き出した。すぐに煽ってくるように返事を返してくるのを睨むだけにとどめて相手をしない事を決め込むと、自分を落ち着かせるように彼女の手を握って明日帰る旨を伝えてその場を後にした
滞りなく任務は終わり、報告書などの書類はまだだが、予告通り家に帰ったのは結局夜の21時頃、彼女に夜ご飯までには帰ると言ったが遅れる旨を伝えたら待っていると言ってくれたので急ぎ足で帰宅した
こどもは眠っていたがなまえが慌ててテーブルの上に散らばっていたものを片付けていた。「あっ!」という彼女の声、こっちに飛んできたものを拾い上げると自分の写真だった
「はぁぁあ!?!?」
思い切り大きな声をあげてしまった。それはだって、警察学校の時の写真、なんでそれがこんな所に…いや、彼女が持っているのかがわからない。驚いたまま停止していると、彼女がそれを慌てて俺の手から引き抜いた
「だめっ!」
しばらく動きを止めていたがはっと気づいて彼女に問いかけると、慌ててかき集めていたものを抱きしめてそれを守るように自分から遠ざけていた
「なんでこんなもの持ってるんですか!?」
「貰ったんです!」
「誰から…赤井?いや、でも赤井が警察学校の時のを持っているわけが…」
「こっちは赤井さん経由でスコッチから。」
「こっち…は?」
じゃあ他にどっちがあるのだろうか。彼女をジッと見つめれば視線をゆっくりと逸らされて、ジリジリと後退して行くのでこっちも彼女にジリジリと近寄って行った。キッチンのカウンターに彼女の背中がつくと、彼女は初めてこっちを睨む
「渡しませんから!宝物です!」
噛みつかんとする勢いで彼女に言われると、息を吐いて両手をあげた
「じゃあ触りませんから、なまえが俺に見せて。それでいいだろ?」
少しだけ下がるようにと視線が足元に向いて、再び見上げてきたので数歩後ろに下がる。ニヤニヤする彼女が「じゃーん」と広げてきたのは警察学校の時どころか組織の時、つまりバーボンの時の写真までもが出てきた
「飾りたいです!」
「やめてください!」
「っ…知ってるんですよ!れーさんが私の写真を仕事の引き出しに入れてたまにちゅーしてるの!!」
それは…やったっけ!?いや。でも自分なら充分にありえるし、風見はないにしてもあのなまえとの話に興味を持っているあいつらなら言いかねない。言葉を飲み込むと「ふんだ」と鼻を鳴らされた
「もう、可愛い…幸せすぎます。毎日見て毎日ただいまってみんなに言う」
「みんな…?」
「伊達さんは置いといて…萩原さん松田さんスコッチ、降谷さん!そしてバーボンッ!」
「なんで俺の名前が最初じゃない!」
「え、そこ!?バーボンは赤井さんが撮ったのかな…ふっ…ふふふふふ…」
急にニヤニヤと笑い出した彼女が写真で顔を隠しながら奇妙な笑い声をあげていた。そしていそいそと揃えてしまい始めたのでそれをため息を吐きながら見て、あれをどうしようか考えながら彼女に踵を返して寝室へ入った。寝室の電気をつけたらこどもが起きてしまうから扉は開けたままにして、リビングの光を借り、ベビーベッドに眠っているこどもの顔を覗き込み、その可愛い寝顔を見て頬を撫でてから着替えた
着替えを済ませてから戻ると、先ほどまであった写真はすっかり無くなっていて変わりにご飯がテーブルの上に並んでいた。彼女が隠しそうな場所は考えれば簡単にわかるのだが、あれを回収したら本気で泣かれそうな気がした
あれだけ楽しそうな彼女は極稀で、しかもほとんど自分の写真を見ている事からまた回収しにくい。彼女の事だからわかっているだろうし、自宅の外には持ち込まないだろうが…回収してどんな反応するかも見たいし、なんなら泣いてくれたって構わないんだけど
「れーさん?」
黙って席についていたら彼女が心配そうに顔を覗き込んだので彼女を見た。すると彼女は眉を下げて「疲れてますよね、ごめんなさいご飯用意していなくて」と謝られた。自分が今から帰る等の旨を伝えていなかっただけなので彼女が謝る必要も無いし、言ってないから写真の存在を知れたので気にする事は無い。それに彼女を見たら疲れだって吹き飛ぶ
「なまえとこどもを見たら疲れなんて吹き飛ぶよ。いただきます」
「…いただきます」
訝しそうにこっちを見る彼女が手を合わせてご飯を食べ始めた。彼女と結婚するまでほとんど自炊していたし、時間が無い時は簡単なものを作って食べたり、今日みたいな日は確実にすぐに食べられるものを重宝していたから、こうやってちゃんと作ってくれているのは有りがたい。全部食べ終わって茶碗洗いは自分が、と申し出てもやらせてくれなくてお風呂に入って来いと言われた
彼女は湯船は絶対に交換していてくれて、実質一番風呂。彼女がボディークリームをつけていない時に体からする匂いはこのお風呂の入浴剤なんだろう、ミルク色したそれの匂いを嗅いで見ると、うん、彼女の匂い。ちなみに入浴剤はたびたび変わっているからもしかしたらそういったものが好きなのかもしれない、お風呂場から出て行けば寝室から彼女が出てきた
「起きた?」
「うん、オムツ替えたらすぐ寝ましたよ」
「ありがとうございます」
彼女にお礼を言うと、笑みを浮かべてきてソファーに座った。自分も彼女の隣に座ってから彼女を見て笑みを浮かべると、彼女が瞬きをした後に眉を下げて笑った
「ね、寝ましょうか」
「話しがあるの、わかるだろ?」
彼女がぶんぶんと首振ってわからない、という意味を示してきた。なんならソファーから立ち上がりそうになったのその手に指を絡ませると諦めたように肩を下げた
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