新一くんから言われた場所には車じゃなくて歩いて行った
蘭ちゃんと園子ちゃんは今日は会えないらしくて、次の日時間があるなら会おうと言ってもらえたので全力でOKした
集合場所は駅前の時計台の下、まだ夏前といえど日差しは暑いし荷物もあるしで木陰になっているベンチに座っていたらスマホがなったのでそれをとった
「もしもし?」
"ついてますか?"
「ついてるよー。ここから新一くん見えてるよー」
時計台の真下を見ると、電話をしている新一くんがいたので手を振ったら気づいてくれたようでこっちに歩み寄ってきた、赤井さんと一緒に
「久しぶりです」
「あぁ。遅れたがおめでとう」
「ありがとう」
「抱っこしていいですか?」
「うん」
新一くんがベビーカーの前にしゃがむとベルトを外して抱き上げていた。新一くんはすっかりパパ状態になっていて、きっと良いお父さんになると思う。それを見ていた赤井さんに新一くんが渡すと、赤井さんがこどもを持ち上げてジッと見つめた
「……スコッチか…?」
「でしょ!?」
さすが赤井さん、わかってくれてありがとう。赤井さんが腕に抱いて背中をポンポンと軽く叩いたりしてる姿をとりあえず写真におさめた
新一くんもこどもの頬を人差し指でつついたりしている、なんだろう、イケメン二人が子供をあやしてる姿とかすっごい眼福なんだけど…
しかも赤井さん想像できなかったくらいに可愛がってくれているようで、抱っこしたまま離さないんだけど
「あの、赤井さん…何か面白いですか?」
「あぁ、放り投げたら飛んでいきそうだな」
「しないでくださいね!?」
ふっと笑われた。本当に放り投げそう、でもちゃんとキャッチしそうではあるけど、そんな心臓が飛び出るような出来事にはあいたくないものだっ…!?
「やぁ安室くん、元気だったか?」
「こんにちは、新一くんなまえさん…それから、この男はどこの誰でしょうか」
見事に心臓が飛び出た。私服に着替えているという事は違う家にでも帰ったのだろうか、茶封筒を持っている彼が、私と新一くんへの挨拶をそこそこに赤井さんを満面の笑みで睨むようにしてみていた
「どこの誰か知らない男に、君の息子のスコッチが可愛がられているな?」
「返せ!!それとスコッチじゃないですし!」
彼がそう言った瞬間に後ろから聞こえてきた声によって、彼の表情がすぐに変わる。
こういう所は今でもプロのようだと思うんだけど、別に彼は俳優でもなんでもないんだよね…
「安室さんっ…!もう、突然走っていっちゃうからびっくりしましたよ。この人たちは?」
「友人と、友人のお知り合いですかね。すみません、僕は少し久しぶりにあったこの方たちとお話があるので、先に行っててもらっても?」
「ええ、もちろん。つき合わせちゃっているわけですし…ごめんなさい」
「いいんですよ。僕も興味があって付き合ってるわけですし」
安室さんの後を追いかけてきた女性が、安室さんの言葉によって頬を赤く染めた。そして彼女も同じような茶封筒を持っていたのだが、それを胸にぎゅっと抱きしめると顔をあげて私たちを見てきた。多分潜入か何かで関わってるんだろうけど、こんな反応をさせてしまう彼はいったいまた何をキラーさせているのだろうか、まだベタベタと彼に触る人たちよりもマシに思えるけど純粋に恋をしてますっていう反応をされても…
それでも、表だって私が妻です、なんて言えないけど…ポアロじゃないんだし
「あのっ…安室さんって彼女とかいますか?」
なんであえて新一くんに聞くの!?って思ったら、それから視線が赤井さんと私へと移っていって「仲良しな夫婦ですね」と笑顔でこどもを見ながら言われた。ちょっとよろしくない言葉だな、と思ってちらっと安室さんを横目で見ると笑顔のまま固まっていた
それに気づいた赤井さんがふっと笑ったのを私は見逃していない。しかもこどもはちょうどいい事に彼女が来る少し前に眠ってしまったので瞳の色を見ていないのだ
新一くんが戸惑って「うーん」なんて言っていると安室さんがその女性のほうを見た
「彼女は、いませんね」
「そう、ですか…は、って事は好きな人とか…」
「ええ、ずっと好きな人はいますよ。もう違う人のものですけどね」
安室さんがこどもに手を伸ばして赤井さんから受け取ると、こどもの額に額を合わせてから私に渡してきた。受け取るとその女性が私をちらっと見てくる
この流れからして私になってしまうだろう、私が首を振ると、女性が「そうですか」と呟いた後に先に行くといって改めて行ってしまった
それを安室さんが確認すると小さくため息を吐いて赤井さんのほうを見れば、表情事態は笑みを浮かべたままなのに、その口の中で赤井さんに向かって文句を言っている
「赤井が抱っこしていたせいでなまえと赤井が夫婦みたいに見られただろうが」
「さっきのはそっちのほうが都合よかったんじゃないのか?少し前までは公にしていたのに今回は隠しているようだし…それとも、何か疚しい事でもあるのかな?」
「あるわけないだろ…。ふぅ…今回は今から向かう先でうっかりさっきの子に結婚してる旨や子供がいる旨をいわれるわけにはいかないんですよ…、それじゃあ僕はいきます。明日、夜ご飯までには帰ります」
下のほうで安室さんに一瞬手を握られて柔らかい笑みを向けられたので小さく頷いた。それからしっかりと赤井さんを睨んでから行く彼はいつも通りで、手を振って見送ると、新一くんがほっと息を吐いた
「なまえさんってやきもちやかないんですか?」
「妬くよー」
「へぇ…どういう時に?」
「結構昔から、わりといつも」
ベビーカーに子供を乗せるとそのまま返事をさせてもらった。暑いという事もあるし、もうすぐお昼なので移動してどこかのお店でご飯を食べるという話しになったので子供がいても大丈夫な場所へ行き、子供が眠っている間に赤井さんが海外にいる時の話しとか、新一くんの大学の話しとかを聞いていた
新一くんは時折会っているからおいておいて、赤井さんがこどもの事も聞いてくれるので産まれた時の話しからを、半分のろけをいれながら話した
安室さんが今何をして、どうしてあの女性といたのかは知らない
いつかこうやって何かの任務に当たっている時に「知らない人」と言われるのだっていつも覚悟はしているし、「自分の子じゃない」と言われる事もあるかもしれないとはわかっている。ただの演技上のそれにショックを受けたりなんかしないけど
あんな明らかに好意を抱かれているんだから、その好意をどうするのかとそっちのほうが気になってしまう
必要ならどうにかするんじゃないかと思ってしまうのは、彼が仕事人間だから…言葉だけの演技には耐えられるけど、体を使ったものにはたとえ演技だとしても悲しくなってしまう
眉を下げて話しを聞いていたら携帯がなった
'お弁当美味しかった、ありがとう。
なまえが今心配してる件についてだけど、無いですから
それじゃ'
ふふって笑ってしまう。私が心配に思ってる事なんて彼にはお見通しで、それが可笑しくて嬉しくて一人で笑ってしまっていた
そこから私はほとんど上機嫌で二人と話していて、夕方頃家に帰った。ちなみに赤井さんからお祝いをもらったんだけどそれが
「お祝いなら通常お金だと思ったんだが、今更だし安室くんには嫌がられると思ってね。それなら君へのお祝いにはこれがいいと思ったんだ、家に帰ってから見てくれ」
と言われて家に帰って開けたら叫んでしまった。叫んだせいでこどもが泣いてしまったんだけど、それをあやして抱きしめて。そして声にならない叫び声を再びあげてしまった
こどもが私の顔を覗き込んでくると、ニヤニヤしている私の顔を見てだろうけどこどもまで変な引き笑いをして笑っていた
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