「あぁ、お腹痛い、笑わせないで…」
笑い事じゃない、息しているのはわかるのに本気で驚く。ずっと握っていたから疲れちゃって、なんて言われるけどこっちとしてはずっと握っていて欲しい。彼女が浅く呼吸をしてはまだ痛そうに時折顔を歪めていた
鎖骨あたりに注射をされた彼女に対して言葉が出ない、お疲れ様とか、ありがとうも何も言えなくて立ち尽くしていた
「大丈夫ですよ」
固まっていると、助産師に話しかけられて顔をあげた
「奥さんでしょ?出産するといっきに血圧低下するんです、奥さん元から低血圧だから余計に具合悪いだけですよ。出血も普通ですし、しばらくすれば治ります」
はっと息を吐いた。やっと安心できたきがして、力が抜ける
彼女の額に額を合わせると、ようやく彼女にお礼を言えた。目を瞑ったままの彼女がふっと笑って目を開けた
その時に服を着せられた彼女が産んだ自分たちの子供が、彼女の隣に寝かせられた
目を瞑ったままのその子供に、彼女が頬を寄せる
「変なにおい…」
ふふっと可笑しそうに笑う彼女が、自分のスマホで写真を撮ってくれと言うので写真を撮った。自分のiPhoneで取れないのが残念だが、それは職業柄仕方ない
妻どころか子供がいるなんて弱味以外の何でもないから
「しばらく休んだらお部屋に行こうね」
「はい」
子供は色々検査があると、一度連れていかれた。横になっている彼女の傍らにしゃがんで、彼女の頬をつついた。もう汗はひいているが、たまにカタカタと体を揺らすのが気になる
「寒いですか?」
頷かれる。出血は普通とか言っていたが、元々彼女は貧血、そして低血圧…凄いコンボだな。それのせいだろうけど、色々あった後だから余計に心配してしまう
布団かなんかもらおうかと思ったら、廊下が騒がしくなった
「すみません、しばらく休まなくちゃいけないんですが、分娩台が埋まってしまった事と次のお産が控えているのでお部屋に行きましょう!ただ絶対安静なので車椅子を使用しましょうか」
「いえ、僕が運びますよ」
「え?」
彼女の膝の後ろに手を入れようとしたら、もう彼女が自分に手を伸ばしていて。それに一瞬感動を覚えると背中に腕を通して持ち上げた
久しぶりにこうやってした気がするから、抱き上げたついでに彼女の首に顔を埋めたら助産師から黄色い悲鳴があがって、そして我に返った助産師に部屋まで案内された、荷物は持ってきてくれていて、部屋に置いた
個室の広めのベッドの上に彼女をおろしてやれば、布団をかけて暖房をつけた
「ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ…体調は大丈夫ですか?」
「色々痛いです…そして、お腹は悲しい事に」
「お腹?」
「元に戻るんでしょうか…」
「お腹がどうしたんですか?」
布団の中でもぞもぞと彼女が動くから、何をしているのかはわからないが、言いにくそうに視線をさ迷わせるので小首を傾げたら「きっと皮がたるんでるんです」と言われた。今まで丸く張っていたお腹の中が無くなったら、皮がたるむのは仕方ない事だろう。ベッドに腰をかけて彼女の頭を撫でた
「しばらくすれば元に戻りますよ。痛みもお腹ですか?」
「たまに、また陣痛みたいな痛みがあるだけなんだけどそこまで痛くないです。あの、安室…さん、ずっと側についててくれるのは嬉しいんですけど、お仕事大丈夫ですか?」
「勿論。さっき風見に連絡しましたし大丈夫ですよ。だからそばにいさせてください…」
その日は少しの間一緒にいて、それからもう面会時間が過ぎたので仕事に戻った。病院にいるうちに1時間ほど顔を出して仕事をしての繰り返し、そして退院する日に彼女の車になる予定の車に、彼女が買っていたチャイルドシートを持って彼女を迎えに行った
「今日からしばらくお休みです。さ、乗ってください」
車に乗り込む前に彼女が吹きだして笑い始めた。その理由は車が似合わないという事だった
彼女が笑っている姿を見られるのは嬉しいが、ちょっとだけ拗ねたくもなる
家について、ソファーに並んで座り、子供を二人で見ていたら目を開けた
「……目…れーさん、かな…いや、ていうか…」
「待って、なまえ…その先言わないで。今多分同じ事おもった」
「おはようスコッチ、君の名前はスコッチだ」
「いやいやいや、やめてください、本気で」
産まれた赤ちゃんは男の子、それから柔らかく少しだけ生えている程度の毛は黒く、今見た瞳の色は確かに俺と同じようなアイスブルーの色…まだ名前も決まっていないのにしばらくこの子をスコッチと呼びそうだ
「何か付けたい名前とかありますか?」
「……考えた事、無かったですね…。だいたい、自分に子供がいる事事態にびっくりしてるよ」
「産まれて初めて子供がいるって自覚した?」
「ええ」
「れーさん、抱っこしてないね、そういえば。はい」
はい!?彼女が子供を差し出してくる。抱き方はわかるけど、自分の子供を抱っこするなんて…彼女から子供を受け取ればぬくぬくしていて、自分たちよりも早い呼吸と早い鼓動
ジッと見つめていれば可愛さに額に頬をすりすりさせていたら彼女に笑われた
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